実家の片付けを進めていくと、車庫やカーポートに「もう何年も動かしていない親の車」が 残っていることがよくあります。家財と違って車は、捨てるにも売るにもまず名義を相続人に移すのが出発点になります。 ここでは普通自動車・軽自動車・バイクのそれぞれについて、 どこへ何を持っていけばよいのかを整理します。

先に押さえる 2 つの結論

1 つめ。放置しても税金は止まりません。自動車税(種別割)は毎年 4 月 1 日時点で車検証に登録されている所有者 (割賦販売などで売主が所有権を留保している場合は使用者)に課税されます。 所有者が亡くなっていても、名義変更も抹消登録もされていなければ登録上の所有者は変わらないため、 年度をまたぐたびに課税が続きます。軽自動車税(種別割)も同じく 4 月 1 日時点の所有者に対して 市区町村から課税されます。

2 つめ。査定額 100 万円以下なら、書類集めが大幅に軽くなります。普通自動車の相続は原則として遺産分割協議書(相続人全員の実印・印鑑証明書)が必要ですが、 その車の価格が 100 万円以下であることを確認できる査定証などを添付できる場合に限り、「遺産分割協議成立申立書」という 1 枚の様式で代用できます。 年式の古い実家の車はこの範囲に収まることが多く、 結果として「車を引き継ぐ人 1 人の実印だけ」で名義変更できるケースが少なくありません。

最初に確認する 4 つのこと

普通車・軽自動車・バイクの手続き比較

区分手続き先相続時の名義変更の呼び方遺産分割協議書名義変更の手数料
普通自動車(登録車)運輸支局・自動車検査登録事務所移転登録原則必要(100 万円以下なら申立書で代用可)700 円(登録印紙)
軽自動車(三輪以上)軽自動車検査協会の事務所・支所自動車検査証記録事項の変更案内上は不要(戸籍謄本等または法定相続情報一覧図で対応)無料
原付・ミニカー・小型特殊(125cc 以下など)市区町村役場(税務担当課)標識の登録・廃車の申告自治体の案内による自治体による(無料のことが多い)
軽二輪(125cc 超〜250cc 以下)運輸支局・自動車検査登録事務所軽自動車届出済証の記載事項変更等運輸支局の案内による運輸支局で確認
小型二輪(250cc 超)運輸支局・自動車検査登録事務所移転登録運輸支局の案内による運輸支局で確認

区分の判定は車検証・軽自動車届出済証・標識交付証明書の「総排気量」欄で行います。 必要書類の細かい運用は管轄によって案内が異なるため、出向く前に管轄の運輸支局・軽自動車検査協会・市区町村役場へ電話で確認するのが確実です。

普通自動車を相続するときの流れ

  1. 1
    車検証で所有者・使用者・車検の有効期間を確認最初に

    所有者欄が信販会社なら先に残債処理

  2. 2
    誰が引き継ぐかを決める

    売る・乗る・廃車にするで、その後の書類が変わる

  3. 3
    査定を取って価格を確認する

    100 万円以下なら遺産分割協議成立申立書が使える

  4. 4
    戸籍謄本(または法定相続情報一覧図)を集める

    被相続人の死亡と相続人が確認できるもの

  5. 5
    運輸支局で移転登録を申請する平日のみ

    申請書・手数料納付書・車検証・印鑑証明書・車庫証明など

  6. 6
    税・保険の名義も切り替える

    自動車税の納税義務者、任意保険の契約者・記名被保険者

  7. 7
    乗らないなら抹消登録か売却へ進む

    一時抹消・永久抹消・買取のいずれか

相続による移転登録の必要書類(関東運輸局・単独相続の例)

これは関東運輸局が公開している単独相続(相続人のうち 1 人が相続する場合)の案内をもとにしたものです。 共同相続や第三者への名義変更を同時に行う場合は書類構成が変わります。

査定額 100 万円以下で使える「遺産分割協議成立申立書」

国土交通省が配布しているこの様式には、冒頭に次の条件が明記されています。 「申請人である相続人が、相続する自動車の価格が 100 万円以下であることを確認できる 査定証書又は査定価格を確認できる資料の写し等を添付した場合に限り使用可能」。

ポイントは次の 3 点です。

なお、この様式はあくまで自動車の登録手続き用のものです。 預貯金や不動産も含めた相続全体の合意内容は、別途遺産分割協議書として 残しておくのが安全です。

車検が切れている場合

普通自動車は車検が切れていると移転登録ができません。関東運輸局の案内では、 対応が次の 3 パターンに整理されています。

その車をどうしたいか手続きの順序
すぐに乗りたい車検を受けてから、相続による移転登録を申請する
当面は乗らない相続と一時抹消登録を同時に申請 → 使うときに中古新規登録
第三者に譲る・売る一時抹消登録をしてから、所有者変更記録の手続きへ進む

「相続と一時抹消登録を同時に手続きする場合」の必要書類として、関東運輸局は次を挙げています。

車検切れの車を自走で運輸支局まで運ぶことはできません。積載車を手配するか、 市区町村などが交付する臨時運行許可(仮ナンバー)を取得します。 臨時運行許可は運行の目的・経路・期間を特定したうえで特例的に認められる制度で、 有効期間は必要最小限(上限 5 日)、申請窓口は市町村または運輸支局等です。 許可された目的・経路から外れて走れば無車検運行として扱われ、罰則の対象になります。 必要書類や手数料は自治体ごとに案内が異なるので、事前に窓口で確認してください。

軽自動車の相続手続きは普通車よりかなり軽い

軽自動車(三輪以上)は軽自動車検査協会の事務所・支所で手続きします。 相続の場合に協会が案内しているのは、「所有者の方が亡くなられた事実と、新しい所有者の方が相続人であることが確認できる」書面— 具体的には戸籍謄本等または法定相続情報一覧図 — であり、 遺産分割協議書の添付は求められていません。 自動車検査証記録事項の変更自体の手数料も無料です。

そのほか用意するものは次のとおりです。

ただし「協議書が要らない=誰が引き継いでもよい」ということではありません。 窓口の添付書類として求められないだけで、相続人の間で誰のものにするかを 決めておく必要がある点は普通車と同じです。

バイクは排気量で窓口が変わる

バイクは 3 つの区分に分かれ、それぞれ管轄がまったく違います。 「バイクだから軽い手続き」と一括りにはできません。

区分排気量の目安管轄車検使用をやめるときの手続き
原動機付自転車(原付)125cc 以下(特定小型原付・ミニカーを含む)市区町村役場なし廃車の申告(標識交付証明書とナンバープレートを返納)
軽二輪125cc 超〜250cc 以下運輸支局・自動車検査登録事務所なし軽自動車届出済証返納届(届出済証・ナンバープレートを返納)
小型二輪250cc 超運輸支局・自動車検査登録事務所あり自動車検査証返納届(検査証・ナンバープレートを返納)

原付は市区町村の窓口(税務担当課)で、窓口のほか郵送に対応している自治体もあります。 名義を移す場合は標識交付証明書と譲渡証明書が必要になるのが一般的ですが、 「前の所有者の廃車手続きが済んでいないと登録できない」など運用に差があるため、 実家のある市区町村のページで確認してください。

軽二輪・小型二輪は運輸支局の管轄です。相続に伴う手続きの必要書類は 普通自動車に準じる部分と二輪固有の部分があるので、こちらも管轄の運輸支局に事前確認を。 なお、臨時運行許可(仮ナンバー)の対象になるのは二輪では小型自動車(251cc 以上)で、 軽二輪は対象に含まれていません。

所有者欄が信販会社・リース会社になっていたら

ローンやリースで購入した車は、完済まで販売会社や信販会社が所有権を持ったままにする「所有権留保」になっていることがあります。 この場合、車検証の所有者欄はその会社名で、使用者欄が親の名前です (書面の様式によっては備考欄に所有者情報が記録されます)。

所有権留保の車は、相続人だけでは名義変更も売却も廃車もできません。手順としては、 まず車検証に記載された会社へ死亡の事実を伝えて残債を確認します。 残債が残っていれば一括返済を求められることが多く、 相続人が改めてローンを組み直せるかは各社の審査次第です。 残債を解消したうえで、その会社から譲渡証明書・委任状・印鑑証明書などの 「所有権解除」の書類を出してもらい、運輸支局で移転登録を行います。

なお、所有権留保の車の自動車税(種別割)は、所有者ではなく使用者に課税されます。 「所有者は会社なのだから税金も会社に行くはず」とはならないので注意してください。

自動車税・軽自動車税はどう動くか

自動車税(種別割)軽自動車税(種別割)
課税する主体都道府県市区町村
基準日毎年 4 月 1 日毎年 4 月 1 日
納税義務者車検証上の所有者(所有権留保なら使用者)その時点の所有者
年度途中で名義変更した場合その年度分は前の所有者に課税。新所有者は翌年度から月割りの制度がない
年度途中で廃車(抹消登録)した場合4 月から抹消した月までの月割額となり、年税額との差額が後日還付される月割りがないため還付はない

ここで実務上効いてくるのがタイミングです。 普通自動車は年度途中で抹消登録すれば差額が戻りますが、 軽自動車は月割りがないため、年度が変わる前に手続きを終えられるかで まるまる 1 年分の差が出ます。「いずれやろう」で 4 月 1 日をまたぐと、 その分がそのまま上乗せされると考えてください。

また、廃車した日は「業者に車を引き渡した日」ではなく運輸支局等で実際に抹消登録がなされた日です。 業者に任せた場合は、登録が完了したかどうかまで確認しておきましょう。 すぐに手続きできない事情があるときは、都道府県の税事務所に相談できる場合があります。

乗らないと決めたときの 3 つの出口

選択肢どういう場合手数料の目安(普通自動車)
売却・買取値がつく可能性がある。まず名義を相続人に移すのが前提移転登録 700 円 + 買取業者の手続きによる
一時抹消登録解体はしないが当面使わない。ナンバーを返納して登録を一時中止する数百円(関東運輸局の相続同時手続きの案内では 500 円)
永久抹消登録リサイクル事業者に引き渡し、適正に解体処分した場合無料

軽自動車の場合は、一時使用中止にあたる「自動車検査証返納届」 (返納証明書の交付を受ける場合は 1 件 450 円)と、解体した場合の「解体返納」(無料)に分かれます。 解体返納では、引取業者から交付される使用済自動車引取証明書に記載された 移動報告番号(リサイクル券番号)が必要です。

順序としては、廃車を決める前に値がつくかどうかを確かめておくのが無難です。年式が古くても、走行距離が多くても、状態によっては値がつくことがあります。 ただし査定額は車種・年式・状態・時期で大きく変わるため、 相場は必ず複数の業者に当たって確かめてください。 先に触れたとおり、100 万円以下であることを示す査定資料は 遺産分割協議成立申立書を使う際にも必要になるので、 相続手続きの早い段階で査定を取っておくと二度手間になりません。

永久抹消登録では、車検の残存期間が 1 か月以上ある場合に 自動車重量税の還付申請を同時に行えます。永久抹消登録が完了した後で還付申請だけを後日行うことはできないとされているので、 申請時にまとめて手続きしてください。

実家じまい全体の中での位置づけ

車やバイクは、家財の片付けとは別の窓口・別のスケジュールで動きます。遺品整理を自分で進める場合は、 屋内の片付けと並行して車検証の確認と査定を進めておくと、 年度末に慌てずに済みます。 相続する人・処分方法が決まったら、実家じまいのチェックリストに 「車の名義変更・抹消登録」の項目を足して、 期日と担当者を決めておくのがおすすめです。

手続きの細かい運用は運輸支局・軽自動車検査協会・自治体によって差があります。 この記事は 2026 年 7 月時点の公表情報にもとづく整理ですので、 実際に動く前に必ず管轄の窓口で最新の案内を確認してください。

よくある質問

Q. 亡くなった親の名義のまま、車を売ったり廃車にしたりできますか?

できません。売却・譲渡・抹消登録のいずれも、まず相続人へ名義を移す(普通自動車は移転登録、軽自動車は自動車検査証記録事項の変更)のが前提です。ただし普通自動車には「相続による移転登録と一時抹消登録を同時に申請する」手続きが用意されており、乗る予定がない車はこの方法でまとめて処理できます。手続きの組み合わせは車の状態で変わるので、管轄の運輸支局・軽自動車検査協会に事前相談してください。

Q. 相続人が複数いますが、全員の実印と印鑑証明書を集めないと名義変更できませんか?

普通自動車は原則として遺産分割協議書(相続人全員の実印・印鑑証明書)が必要ですが、その車の価格が 100 万円以下であることを確認できる査定証などを添付できる場合に限り、「遺産分割協議成立申立書」が使えます。この様式は車を引き継ぐ相続人 1 人の実印で足り、他の相続人の実印・印鑑証明書の添付は不要です。ただし「この申立書で申請することについて他の相続人の同意を得ている」ことが前提で、同意年月日を記入する欄があります。軽自動車はそもそも遺産分割協議書の添付が求められていません。

Q. 手続きをしないで放置すると、どうなりますか?

自動車税(種別割)は毎年 4 月 1 日時点で車検証に登録されている所有者に課税されるため、名義変更も抹消登録もしないまま 4 月 1 日をまたぐと、その年度分がまた課税されます。軽自動車税(種別割)も 4 月 1 日時点の所有者に課税され、こちらは月割りの制度がないため年度途中で廃車しても還付はありません。さらに車検が切れると公道を走れなくなり、運輸支局へ持ち込むのに仮ナンバーや積載車が必要になって手間と費用が増えます。