なぜ書き方でつまずくと厄介なのか

遺言書がない相続では、実家の名義変更(相続登記)や預貯金の解約に遺産分割協議書が必要です。これは「誰が何を相続するか」を 相続人全員で決めた合意書で、全員の実印と印鑑証明書を添えます。

やっかいなのは、書き方を間違えると法務局や銀行で受け付けてもらえないこと。 そして直すには、また相続人全員に実印をもらい直す必要があります。 遠方・疎遠な相続人がいると、これが大きな負担になります。だから最初から正しく書くことが大切です。

不動産の書き方 — 登記事項証明書の通りに

最もつまずきやすいのが不動産です。ポイントは法務局で取得した「登記事項証明書」の表記どおりに書くこと。

特に見落とされがちなのが私道の共有持分です。実家の前の道が 近隣との共有私道になっていると、その持分の記載を忘れて登記が中途半端になることがあります。 これを防ぐ実務の一文が、「次の不動産を含む一切の不動産は〇〇が相続する」という 包括的な書き方です(管轄の法務局で通るか、事前に確認できるとより安心です)。

預貯金の書き方 — 口座で特定、残高は書かない

預貯金は、金融機関名・支店名・口座種類・口座番号で特定します (ゆうちょ銀行は貯金種類と記号番号)。残高は変動するので書かなくてよいのがポイントです。 残高を書いてしまうと、日々の利息などで金額がずれ、かえって手続きが煩雑になります。

なお、故人の口座は凍結されており、協議がまとまるまで原則引き出せません。 葬儀費用など協議の成立前にお金が必要な場合は、仮払い制度という選択肢があります。

覚えておきたい 2 つの実務テクニック

1. 記載漏れに備える予備の条項

後から財産が見つかっても作り直さずに済むよう、 「本協議書に記載のない遺産は〇〇が取得する」という一文を入れておきます。

2. 実家の共有名義は避ける

1 つの不動産を複数人で共有で相続すると、将来の相続で持分がさらに分かれ、 売却に全員の同意が要るなど動かせなくなります。長く持つなら、 誰か 1 人が相続して他の人に代償金を払う「代償分割」なども検討します。 共有名義のリスクは共有名義の記事で詳しく解説しています。

署名・押印と製本のルール

この協議書が使える場面

完成した遺産分割協議書は、実家の相続登記(名義変更)や、 預貯金の払い戻しに使います。そもそも財産が把握できていない段階なら、 先に財産・借金の調べ方で全体像を固めてください。 なお、生前に遺言書があれば、 この協議書自体が不要になり、手続きは大きく楽になります。

作成を専門家に任せたい場合、協議書は司法書士・行政書士・弁護士のいずれにも依頼できますが、 登記まで頼むなら司法書士、揉めているなら弁護士と、適任は状況で変わります。相続の相談先の使い分けを参考にしてください。

話し合っても合意できないときは、家庭裁判所の遺産分割調停・審判に進みます。 また再婚家庭で前妻の子がいるなど 相続人の範囲が複雑なケースは、協議に入る前に相続人の確定を慎重に行ってください。

なお、協議が整う前に片付けや売却を進めてしまうと、あとから揉める原因になります。 この種の順番の間違いはやってはいけないこと 10で回避策とセットで解説しています。

よくある質問

Q. 遺産分割協議書は自分で作れますか?

シンプルな相続なら自分で作ることも可能です。ただし不動産の記載は登記事項証明書の通りに正確に書く必要があり、書き方を誤ると法務局で登記が通りません。相続人が多い・不動産が複数・私道やマンションが絡む場合は、書き直しで全員の実印をもらい直す手間を考えると、司法書士に依頼した方が結果的に早いこともあります。

Q. 固定資産税の納税通知書を見て書けばいいですか?

それだけでは不十分なことがあります。納税通知書と登記事項証明書(登記簿)では表記が一致しない場合があり、また私道など非課税の土地は納税通知書に載らないことがあります。必ず法務局で登記事項証明書を取得し、その表記どおりに記載してください。

Q. 後から別の財産が見つかったら、また全員で作り直しですか?

そのリスクを避けるために、協議書に「本協議書に記載のない遺産は〇〇が取得する」といった予備の条項を入れておく方法があります。これがあれば、後から出てきた財産のために再度全員の実印を集め直す事態を防ぎやすくなります。

※ 遺産分割協議書の具体的な文面や、法務局・金融機関ごとの運用は個別性が高い領域です。 実際の作成・登記は司法書士等の専門家にご相談ください。