結論 — 「相続人が増える」話の逆、「絞られる」話です

祖父や、さらにその前の曾祖父の名義のままになっている実家の土地。 放置された名義変更というと、数次相続のように世代を経るごとに相続人が枝分かれして増えていく話を思い浮かべる方が多いと思います。 私自身、調べる前はそう思っていました。

ただし、名義人の死亡日によっては、話がまったく逆になることがあります。 名義人が昭和22年5月2日以前に亡くなっている場合、 当時の民法(旧民法)が適用され、「家督相続」という、戸主の地位と財産を1人が単独で承継する制度の対象になっていた可能性があるからです。 この場合、現行民法の感覚とは逆に、相続人がもともと1人に絞られていたことになります。

この記事では、家督相続がどんな制度で、自分のケースが当てはまるかをどう確認するのか、 当てはまった場合に実務でどう進めるのかを、法務省・法務局の一次資料をもとに整理します。

現行民法の数次相続と、旧民法の家督相続 — 何が逆なのか

分かれ目は、単純に「名義人がいつ亡くなったか」の1点です。 昭和22年5月3日以降の死亡なら現行民法、それより前なら旧民法という整理になります (根拠は次の章で確認します)。この違いで、相続人の増減の向きがまるで逆になります。

現行民法(数次相続)旧民法(家督相続)
適用される場面名義人の死亡日が昭和22年5月3日以降名義人の死亡日が明治31年7月16日〜昭和22年5月2日
相続するのは誰か配偶者・子など法定相続人全員原則として戸主の地位を継ぐ人が単独
遺産分割協議必要(相続人全員の実印・合意)不要(法律上すでに単独の承継として確定)
世代を経るとどうなるか当事者が枝分かれして増えていくその世代については当事者が1人に絞られる
詳しい解説数次相続とは本記事

※ 現行民法(数次相続)の詳細な当事者の増え方や中間省略登記の条件は数次相続とは — 祖父名義のまま放置した実家の相続登記にまとめています。同じ「祖父名義の実家」というテーマの、逆方向の記事としてあわせてどうぞ。

家督相続とは — 戦前の「戸主」の地位・財産を受け継ぐ制度

民法の「第5編 相続」は、明治31年に「第4編 親族」とともに公布され、 明治31年7月16日から施行されました(明治民法)。 この明治民法では、家制度を前提とする家督相続(戸主の地位及び財産の承継)を中心に相続の規律が組み立てられていました(出典: 法務省「民法(相続関係)部会 参考資料2」)。

家督相続は、戸主の死亡・隠居・国籍喪失などをきっかけに開始し、 原則として法律で定められた1人の跡継ぎ(多くの場合は長男)が、戸主の地位と財産の両方を単独で承継するという仕組みです。現行民法のように相続人全員で財産を分け合う発想とは、根本の設計が異なります。

※ この制度は当時の家制度を前提にした歴史的な法制度であり、 本記事では現代の価値観からの評価はせず、名義変更の実務にどう影響するかという観点でのみ扱います。

この制度は、日本国憲法の施行にあわせて姿を消しました。 「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律第74号)が 昭和22年5月3日から施行され、その第7条で「家督相続に関する規定は、これを適用しない」と定められたためです。 つまり、昭和22年5月2日までに開始した相続には旧民法(家督相続)が、 昭和22年5月3日以降に開始した相続には現行民法が適用されるという整理になります。

自分のケースに当てはまるか — 判定の入り口は「死亡日」の1点

実家の名義が祖父・曾祖父のままだからといって、自動的に家督相続の対象とは限りません。 確認すべきことは、驚くほどシンプルです。

  1. 1
    登記事項証明書で「今の名義人」を確かめる即日

    法務局で誰でも取得できる。ここで初めて祖父・曾祖父名義だと分かるケースが多い

  2. 2
    名義人の死亡日を戸籍・除籍謄本で確認する

    昭和22年5月2日以前かどうかが最初の分かれ目。ここが本記事のテーマか、現行民法の数次相続かの判定ポイントになる

  3. 3
    前戸主の除籍謄本もあわせて取り寄せる

    家督相続の記載は、名義人本人の戸籍ではなく前の戸主の戸籍に残っていることがある

  4. 4
    戸籍の記載を確認し、家督相続に該当するか判定する

    「家督相続」の文字と、前戸主の死亡・隠居等の原因、受付年月日が記載されているのが典型的な書き方

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    司法書士に相談し、必要書類を整えて登記申請する

    住所の同一性証明(次章)を含め、事案ごとに必要書類が変わるため専門家の確認が前提になる

戸籍でどう確認するか — 「家督相続」の文字を探す

家督相続の記載は、名義人本人の戸籍謄本だけを見ていても見つからないことがあります。 東京ブロック管内の法務局が公開している相続登記ガイドブックには、 市区町村の戸籍担当者への案内文の例として、次のように明記されています。

家督相続や分家等の理由により、前戸主等の戸籍謄本に、被相続人の記載がある場合は、 その戸籍謄本等の交付もあわせてお願いします。

出典: 東京ブロック管内法務局・地方法務局 相続登記促進プロジェクト「相続登記ガイドブック」。

つまり、家督相続で名義を受け継いだ人自身の戸籍だけでなく、その前の戸主(たとえば曾祖父)の除籍謄本まで遡って取り寄せる必要があるということです。 司法書士の実務解説では、戸籍上の記載パターンとして 「(前戸主の死亡・隠居等の事由)に因り家督相続 ◯年◯月◯日受附」といった書き方が紹介されており、 この受付日がその戸籍の作成日にあたるとされています。

住所が証明できないときの実務 — 除票・附票から先の話

家督相続に該当すると分かっても、それだけで登記が終わるわけではありません。 登記簿上の住所と、戸籍・住民票上の名義人が同一人物であることを書類で示す必要があり、 何十年も前の相続ほど、この「住所のつながり」の証明でつまずきやすくなります。

頼りになるのは、まず住民票の除票と戸籍の附票です。 令和元年6月20日施行の住民基本台帳法改正により、 これらの保存期間は原則150年に延長されました。 ただし、この改正は平成26年6月20日以降に消除・改製されたものから対象になる仕組みで、 それより前に消除されたものは、改正前の5年ルールですでに廃棄されている可能性があります (出典: 総務省の制度改正にもとづく各自治体の案内)。 家督相続が関わるような古い名義ほど、除票・附票が「そもそも残っていない」ことは珍しくありません。

除票・附票が取得できない場合、司法書士の実務解説では、 権利書(登記済証・登記識別情報)や固定資産税の納税証明書などを代わりに提出する方法が広く紹介されています。 それでも住所のつながりを客観的に示せない場合の対応(相続人全員の実印つきの上申書を用意するかどうかを含む)は、 法務局への確認が必要な事案ごとの判断になります。 令和5年12月18日付けの法務省の通知により、一定の書類の組み合わせがそろえば 上申書を省略できる運用が案内されている、という紹介も司法書士の解説サイトで見られますが、 具体的にどの書類で足りるかは物件ごとに確認が必要です。

※ 住所の同一性証明にどの書類が必要かは、当サイトでは個別に判断できません。 手元にある書類(権利書・固定資産税の納税通知書など)を整理したうえで、司法書士に相談してください。

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祖父から孫への名義変更 — 家督相続がある場合は当事者が絞られる

数次相続の記事で解説したとおり、 現行民法のもとで祖父から孫へ名義を移すには、 原則として「祖父→父」「父→孫」という2段階の遺産分割協議が必要で、 中間の父の代に相続人が複数いれば、その全員の実印が必要になります。

ただし、祖父の死亡日が明治31年7月16日〜昭和22年5月2日の間で、 祖父の代の承継が家督相続に該当していれば、話は変わってきます。 家督相続は遺産分割協議を経る手続きではなく、法律上すでに単独の承継として確定しているものだからです。 この場合、祖父の代についてはほかの相続人の同意や実印を集める必要がなく、父から孫への現行民法下の遺産分割協議だけで済む、という整理になり得ます。

これは相続人の人数を大きく左右する分かれ目なので、 「2段階のはずが、まとめられるかもしれない」という可能性として、 戸籍を確認する前から一応知っておいて損はないと思います。 ただし、これも家督相続の該当性の判定そのものですから、 最終的な適用可否は司法書士に確認してください。

今日からできること

何代も前の相続と聞くと身構えてしまいますが、最初の一歩はいつもの相続登記と変わりません。

相続人が誰かを整理したあとの手続き全体の流れは相続登記を自分でやる手順、 誰に何を相談すればよいかは相続の相談先ガイドにまとめています。

よくある質問

Q. 家督相続に当てはまれば、必ず自分だけで登記できますか?

家督相続に当てはまるのは、あくまで「その世代の相続人が誰か」という部分です。祖父の代が家督相続で確定していても、父の代・自分の代の相続には現行民法が適用され、あらためて相続人全員での遺産分割協議が必要になることがあります。家督相続が絡む名義変更は、どの世代がどちらの制度で確定するのかを戸籍で1つずつ確認していく作業になるため、司法書士に相談しながら進めることをおすすめします。

Q. 戸籍に「家督相続」の記載が見当たりません。どうすればいいですか?

家督相続に関する記載は、名義人本人の戸籍ではなく、前の戸主の戸籍謄本(除籍謄本)に残っていることがあります。法務局の相続登記ガイドブックでも「家督相続や分家等の理由により、前戸主等の戸籍謄本に、被相続人の記載がある場合は、その戸籍謄本等の交付もあわせてお願いします」と案内されており、前戸主の除籍謄本まで遡って確認する必要があります(出典: 東京ブロック法務局「相続登記ガイドブック」)。それでも記載が見当たらない場合は、通常の遺産分割として扱われる可能性もあるため、自己判断せず司法書士に確認してください。

Q. 住民票の除票も戸籍の附票も市区町村に残っていませんでした。あきらめるしかないですか?

すぐにあきらめる必要はありません。除票・附票が市区町村で廃棄されている場合、権利書(登記済証・登記識別情報)や固定資産税の納税証明書などを代わりに使う実務があると司法書士の解説サイトで広く紹介されています。ただし、どの書類の組み合わせで足りるか、それでも足りない場合にどう対応するかは、法務局への確認を含めて事案ごとに判断が変わる登記手続きそのものです。当サイトでは個別の登記手続きの判断はできませんので、状況を整理したうえで司法書士に相談してください。

一般的な制度説明です(2026 年 7 月時点)。個別の登記手続きの判断・法律判断はできません。家督相続の該当性、住所の同一性証明に必要な書類、遺産分割協議の要否は、事案ごとに結論が変わる領域です。必ず司法書士にご相談ください。

この記事の出典(4件)
  • 法務省・法務局の公表資料
  • 明治 31 年法律第 9 号 / 昭和 22 年法律第 74 号などの一次資料
  • 総務省の制度改正にもとづく自治体の案内
  • 司法書士の実務解説