結論 — 相談先は「4 つの質問」で決まる
相続の相談先が分かりにくいのは、士業ごとに「法律上できること」が分かれているからです。 逆に言えば、自分の状況を上から順に当てはめれば、相談先はほぼ機械的に決まります。
- 1相続人の間で揉めている・揉めそう → 弁護士
相手との交渉や調停・審判の代理ができるのは弁護士だけ(弁護士法 72 条)。揉めてから他の士業に頼んでも代理はできません
- 2相続税の申告が必要 → 税理士
遺産総額が基礎控除(3,000 万円 + 600 万円 × 法定相続人の数)を超えるなら申告が必要。税務代理・税務相談は税理士の業務(税理士法 2 条・52 条)
- 3申告は不要だが、実家など不動産がある → 司法書士
相続登記(名義変更)の申請代理は司法書士の業務(司法書士法 3 条)。2024 年 4 月から登記は義務化されています
- 4申告も不動産もない → 行政書士 or 自分で
遺産分割協議書などの書類作成は行政書士にも依頼可(行政書士法 1 条の 3)。預貯金だけなら自分で進められるケースも多い
「揉めていない・相続税もかからない・不動産だけある」という実家じまいで最も多いパターンでは、司法書士が最初の相談先になることが多い、というのがこのフローの帰結です。 なお、どの士業に頼むにしても、前提として財産と借金の全体像を調べておくと 相談が一度で済みやすくなります。
士業別「できること」早見表
各士業の業務範囲は、それぞれの資格法で定められています。 代表的な相続の困りごとを、主な相談先と法律上の根拠で整理しました。
| 相談したいこと | 主な相談先 | 法律上の根拠 |
|---|---|---|
| 相続人同士の紛争の代理交渉・調停・訴訟 | 弁護士 | 弁護士法 72 条(弁護士以外の代理交渉は禁止) |
| 相続税の申告・税務代理・税務相談 | 税理士 | 税理士法 2 条・52 条 |
| 不動産の相続登記(名義変更)の申請代理 | 司法書士 | 司法書士法 3 条 1 項 1 号 |
| 家庭裁判所に出す書類の作成(相続放棄の申述書など) | 司法書士(作成)・弁護士(代理まで) | 司法書士法 3 条 1 項 4 号 |
| 遺産分割協議書など権利義務に関する書類の作成(争いがない場合) | 行政書士など | 行政書士法 1 条の 3 |
| 戸籍の収集・相続人の確定 | 各士業とも依頼した手続きに付随して対応 | — |
※ 条文は e-Gov 法令検索で確認した現行法の整理です。細かな例外(他の法律による特則など)があるため、 個別の依頼可否は各士業・各会の窓口でご確認ください。
税理士 — 相続税の申告が必要なら
相続税の申告書の作成・税務代理・税務相談は税理士の業務です(税理士法 2 条・52 条)。 申告が必要なのは遺産総額が基礎控除 「3,000 万円 + 600 万円 × 法定相続人の数」を超える場合で、 期限は亡くなったことを知った日の翌日から 10 か月以内です (国税庁タックスアンサー No.4152・No.4205)。
実際、相続税の申告書のうち税理士が関与したものの割合は86.3%(令和 5 事務年度)にのぼります (財務省「令和 5 事務年度 国税庁実績評価書」)。 相続税の申告は財産評価や特例の適用で結果が大きく変わるため、 自力で完結させる人は少数派、というのが公的な統計から見える実態です。
- 税理士にも得意分野があります。依頼するなら相続税の申告実績を確認し、 できれば二次相続(配偶者が亡くなったときの相続)まで含めた試算をしてくれる事務所を選ぶと安心です。
- 納税資金が心配な場合の延納・物納・売却の選択肢は相続税が一括で払えないときの記事で、 実家売却時の税の特例は空き家特例(3,000 万円控除)の記事で解説しています。
司法書士 — 実家の名義変更(相続登記)と裁判所提出書類
不動産の相続登記の申請代理は司法書士の業務です(司法書士法 3 条)。2024 年 4 月からの相続登記の義務化で、 実家がある相続では避けて通れない手続きになりました。
費用の統計もあります。日本司法書士会連合会の報酬アンケート(2024 年 3 月実施)では、 土地 1 筆・建物 1 棟(固定資産評価額計 1,000 万円)の相続登記を、戸籍 5 通の取得と 遺産分割協議書・相続関係説明図の作成込みで依頼した場合の報酬は全国平均 74,888 円でした。あくまでモデルケースの平均で、 不動産や相続人の数によって変わりますが、相見積もりの物差しになる数字です。 このほかに登録免許税(評価額の 0.4%)や戸籍取得などの実費が別途かかる 「報酬 + 実費」の 2 階建てである点に注意してください。内訳は名義変更費用の記事で詳しく解説しています。
- 登記は自分で申請することもできます。 平日に動ける時間があり、相続関係が単純なら十分現実的です。
- 司法書士は裁判所に提出する書類の作成もできます(司法書士法 3 条 1 項 4 号)。相続放棄の申述書の作成を頼み、 提出は自分で行う、という使い方が典型です。ただし家庭裁判所で代理人になれるのは弁護士です。
行政書士 — 争いのない書類作成をリーズナブルに
行政書士は、官公署に提出する書類や権利義務・事実証明に関する書類の作成を業とします (行政書士法 1 条の 3)。相続の場面では、争いのない遺産分割協議書の作成、 戸籍収集のサポート、自動車の名義変更、農地転用の許可申請などが守備範囲です。
一方で、登記の申請代理・裁判所提出書類・税務申告・紛争の代理はできません。 「申告も不動産も争いもない」相続で、書類作成の部分だけ手伝ってほしい — という限定的な依頼に向いており、依頼範囲が絞られるぶん費用を抑えられる場合があります。
弁護士 — 揉めたら代理できる唯一の専門家
相続人の間で対立があるとき、相手との交渉・調停・審判・訴訟をあなたの代理人として 進められるのは弁護士だけです。報酬を得て法律事件の代理を業とすることは、 弁護士以外には禁止されています(弁護士法 72 条・いわゆる非弁行為の禁止)。
注意したいのは、揉め始めてから税理士や司法書士に相談しても、 相手方との交渉は頼めないことです。遺産の分け方で対立が見えている、共有名義でこじれている、 使い込みの疑いがある — そんなケースでは、遠回りせず最初から弁護士に相談するのが結果的に早道です。 将来の争いを予防する遺言書の相談先としても有力です。 費用は各事務所が自由に定めるため、委任契約の前に見積もりと報酬基準の説明を受けてください。
たらい回し・高すぎる報酬を防ぐ 3 つのコツ
相続の手続きは複数の士業にまたがるため、「ここではできません」と別の窓口に回されたり、 言われるままに割高な報酬で契約してしまったりしがちです。 葬儀社や金融機関から紹介された専門家に、確認もせずその場で契約してしまうと、 後から相見積もりを取った場合より割高になっていた、ということも起こり得ます。 紹介されたからといって、その場で契約する必要はありません。
- 状況を整理してから連絡する「揉めているか」「相続税がかかりそうか」「不動産があるか」の 3 点を伝えられるだけで、窓口違いのたらい回しはほぼ防げます
- 他士業との連携(ワンストップ対応)を最初に確認する登記も申告も必要なケースでは、提携先とチームで対応してくれる事務所なら窓口が 1 つで済みます
- 紹介されても即決せず、相見積もりを取る葬儀直後の疲れた時期こそ要注意。見積もりは「報酬」と「登録免許税などの実費」を分けて比較します
なお、亡くなった直後は士業への依頼以外にも期限付きの手続きが集中します。全体像は死亡直後の手続きチェックリストで確認してください。
無料で相談できる窓口
いきなり有料相談に行かなくても、入口として使える窓口があります。
| 窓口 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 法テラス(日本司法支援センター) | 収入・資産が一定基準以下の方向けの無料法律相談 | 同一問題につき 3 回まで・1 回 30 分程度 |
| 市区町村の相談会 | 弁護士・司法書士・税理士などの無料相談を定期開催している自治体がある | 広報紙・自治体サイトで日程を確認 |
| 各士業会(弁護士会・司法書士会・税理士会・行政書士会) | 相談センターや無料相談会を設けていることがある | 各会の公式サイトで確認 |
| 税務署 | 相続税の一般的な質問(制度の仕組み・申告の要否など) | 個別の申告書作成の代行はしない |
| 法務局 | 登記手続案内(自分で相続登記を申請する場合の案内) | 予約制。書類の作成代行はしない |
※ 各窓口の利用条件・回数・時間は変更されることがあります。最新の条件は各機関の公式サイトでご確認ください。
士業への相談・依頼を含む実家じまいの手続き全体を、進捗保存つきチェックリストで抜け漏れなく管理できます。
無料ツール(登録不要)実家じまいチェックリスト【進捗が保存できる実践版】チェックした進捗を自動保存。印刷して親族と共有も使ってみる →よくある質問
Q. フローを見ても、まだどこに相談すべきか迷います。最初の一歩は?
「実家など不動産があるなら司法書士」「相続税がかかりそうなら税理士」を入口にすると、多くのケースで話が進みます。それでも判断がつかないときは、法テラスや市区町村の無料相談で「自分のケースは誰に頼むべきか」の交通整理だけしてもらう方法があります。最初の相談先が最終的な依頼先である必要はありません。
Q. 相続税の申告が必要かどうかは、どう判断すればいいですか?
遺産の総額が基礎控除「3,000 万円 + 600 万円 × 法定相続人の数」を超える場合に申告が必要です(国税庁タックスアンサー No.4152)。例えば相続人が 3 人なら 4,800 万円が目安です。ただし遺産の総額を出すには財産調査が前提で、不動産の評価や各種の特例で結果が変わることもあります。基礎控除を超えるか微妙な場合は、早めに税理士へ試算を相談すると安心です。
Q. 相続放棄は司法書士と弁護士のどちらに頼めばいいですか?
家庭裁判所に提出する相続放棄の申述書の「作成」は司法書士に依頼できます(司法書士法 3 条)。一方、家庭裁判所への申述を代理人として行えるのは弁護士です。書類を作ってもらい提出は自分で行うなら司法書士、期限が迫っている・債権者対応や相続人間の争いが絡むなら弁護士、という使い分けが一般的です。いずれも「知ってから 3 か月」の期限があるため早めに動いてください。
※ 本記事は各士業の資格法(e-Gov 法令検索)・国税庁・日本司法書士会連合会などの公表情報に基づく 一般的な制度解説です。個別のケースの法律判断・税務判断には踏み込んでいません。 具体的な相続の進め方は、本文の振り分けを参考に、弁護士・税理士・司法書士・行政書士等の 専門家にご相談ください。