年金は「後払い」だから、未支給分は必ず残る
親が亡くなったあと、年金については「止める手続き」と「受け取る手続き」の 2 つがあります。忘れられがちなのが後者です。
公的年金は後払いのしくみで、原則として偶数月(2・4・6・8・10・12 月)の 15 日に、 それぞれの前月までの 2 か月分がまとめて振り込まれます(15 日が土日祝なら直前の営業日)。 一方で年金は、受け取る権利が消滅した日の属する月まで支給されます (国民年金法 18 条 1 項)。日割り計算はありません。
つまり、亡くなった月の分までは受け取る権利があるのに、後払いなので本人はそれを受け取れません。 この差額が「未支給年金」で、年金を受給していた方が亡くなればほぼ必ず発生します。そして重要なのが、これは相続財産ではなく、請求する遺族自身の権利だという点です。 相続放棄をした人でも受け取れます。
死亡から受け取りまでの流れ
手続きの窓口は年金事務所(または街角の年金相談センター)で、郵送でも受け付けています。 全体像は次のとおりです。
- 1基礎年金番号を確認するまず最初に
年金証書・基礎年金番号通知書・年金手帳・振込通知書などで確認。見つからなければ年金事務所へ問い合わせる
- 2死亡の連絡と受給停止(受給権者死亡届)10 日 / 14 日以内
厚生年金は 10 日以内、国民年金は 14 日以内が目安。日本年金機構にマイナンバーが収録されていれば原則省略できる
- 3請求できる遺族を確定する
優先順位の高い人が 1 人。同順位が複数なら代表者 1 人が請求し、あとで分け合う
- 4「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」を用意する
死亡届と未支給年金の請求書は 1 つの様式。年金事務所の窓口・郵送・日本年金機構のサイトから入手できる
- 5添付書類をそろえて提出する
窓口持参(予約推奨)または郵送。遺族年金も請求する場合は同時提出で書類を兼ねられることがある
- 6審査・振込数か月かかることも
提出から振込まで一定の期間がかかったという報告が多い。時期の目安は提出時に年金事務所へ確認を
※ 提出期限の 10 日・14 日は、日本年金機構が案内している目安です。マイナンバーが 収録されている場合の省略可否を含め、ご自身のケースは年金事務所にご確認ください。
受け取れる遺族の範囲と優先順位
未支給年金を請求できるのは、亡くなった当時、その人と生計を同じくしていた一定範囲の親族です(国民年金法 19 条・厚生年金保険法 37 条)。順位は法令・政令で決まっていて、先順位者がいる場合、後順位者は受け取れません。
| 順位 | 請求できる人 | メモ |
|---|---|---|
| 1 | 配偶者 | 事実上婚姻関係と同様の事情にあった方も含まれる |
| 2 | 子 | 同順位が複数いる場合は代表者 1 人が請求する |
| 3 | 父母 | — |
| 4 | 孫 | — |
| 5 | 祖父母 | — |
| 6 | 兄弟姉妹 | — |
| 7 | 上記以外の 3 親等内の親族 | おい・めい、おじ・おばなど。いとこは 4 親等のため対象外 |
実家じまいの場面で多いのは、親と同居していたきょうだいの 1 人が代表して請求するケースです。早い者勝ちではなく、受け取ったあとで話し合って分けることになります。 遺産分割の対象になる財産ではないので、遺産分割協議書とは別枠で扱うのが基本です。
「生計を同じくしていた」は、別居でも認められることがある
最大のハードルがこの要件です。ただし「同居していなければダメ」というわけではありません。
- 住民票の住所が同じ場合 — 亡くなった方の住民票の除票と、 請求する方の世帯全員の住民票の写しで確認されます
- 住民票の住所が異なる場合 — 上記に加えて「生計同一関係に関する申立書」を提出します。日本年金機構は、 生計同一関係を示す書類の提出、または第三者による証明が必要としています
仕送りの入出金がわかる通帳、医療費・施設費を負担していたことがわかる領収書、 定期的な音信・訪問の事実などが、実務上の材料になります。 遠方の実家に通っていた方は、こうした記録が残っていないか確認してみてください。 何をどこまで求められるかは個々の事情で変わるため、手元の資料を持って年金事務所に事前相談するのが遠回りに見えて一番早い方法です。
何か月分になるかは「亡くなった日」で決まる
後払いのしくみ上、未支給年金の月数は死亡日と支払日(偶数月 15 日)の前後関係で変わります。 10 月 15 日の支払いには 8 月分と 9 月分が乗る、という前提で見ると分かりやすくなります。
| 亡くなった時期 | 例 | 未支給となる月分 |
|---|---|---|
| 偶数月の 15 日より後 | 8 月 20 日 | 8 月分の 1 か月分(6・7 月分は 8/15 に受取済み) |
| 奇数月 | 9 月 10 日 | 8 月分・9 月分の 2 か月分 |
| 偶数月の 15 日より前 | 10 月 10 日 | 8 月分・9 月分・10 月分の 3 か月分 |
※ 支払日が土日祝と重なる場合や、死亡の連絡が届く前に振込処理が進んでいた場合など、 実際の取り扱いは個別に異なります。金額は加入歴によって人それぞれで、 ここでの月数はしくみを理解するための整理です。正確な内容は年金事務所でご確認ください。
なお、連絡が間に合わず死亡日以降の分まで振り込まれてしまった場合は、 あとから返還を求められます。日本年金機構も「届出が遅れると年金を多く受け取りすぎることになり、 後でお返しいただく場合があります」と案内しています。慌てる必要はありませんが、放置は禁物です。
必要書類の目安
請求書は「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」という死亡届と請求書が一体になった様式です。添付書類の目安は次のとおりです。
| 書類 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 年金証書 | 亡くなった方の基礎年金番号がわかるもの | 紛失時は振込通知書・改定通知書などでも可の場合あり |
| 続柄がわかる書類 | 戸籍謄本・抄本など | 亡くなった方と請求者の関係を確認するため |
| 生計同一関係がわかる書類 | 住民票(除票・世帯全員の写し) | 住所が異なる場合は「生計同一関係に関する申立書」を追加 |
| 請求者のマイナンバー確認書類 | マイナンバーカードなど | 記入により一部の添付書類を省略できる場合がある |
| 受取口座の確認書類 | 請求者名義の通帳・キャッシュカードの写し | 金融機関によっては指定できない口座種別もある |
※ 必要書類は請求者と亡くなった方の関係、加入していた制度、マイナンバーの収録状況によって 変わります。行く前に年金事務所へ電話し、必要書類と予約を確認してください。
相続放棄をしても受け取れる理由
未支給年金が「相続財産ではない」と言われるのには、はっきりした根拠があります。
- 条文 — 国民年金法 19 条・厚生年金保険法 37 条は、生計を同じくしていた 一定の親族が「自己の名で」未支給分の支給を請求できると定めています。 故人の権利を引き継ぐのではなく、遺族自身に与えられた権利という構造です
- 判例 — 最高裁は平成 7 年 11 月 7 日の判決で、この規定は相続とは別の立場から 一定の遺族に未支給年金の支給を認めたものであり、故人が持っていた請求権が同条を離れて 別途相続の対象になるものではないことは明らかだ、と判断しています
- 税務 — 国税庁も、未支給年金請求権は遺族が自己の固有の権利として 請求するものであり、相続税の課税対象にはならないと説明しています
そのため、実家に多額の借金があって相続放棄を選んだ場合でも、 未支給年金は請求できます。逆に言えば、借金の調査中で相続放棄を検討している段階でも、未支給年金の手続きは進めてよいということです。財産と負債の全体像の調べ方は相続財産・借金の調べ方にまとめています。
※ 相続放棄と単純承認の線引きは、実際にどんな行為をしたかによって判断が分かれることがあります。 未支給年金以外のお金に手をつける前に、弁護士・司法書士に確認してください。
見落としやすい注意点
- 請求しないと「返してください」だけが残る受け取れる遺族がいるのに請求しないと、死亡後に振り込まれた分の返還請求だけが届くことになる。受け取れる遺族がいない場合は死亡届の部分だけを提出する
- 故人の年金受取口座を、請求前に急いで解約しない振込先や入出金の確認が必要になる場面があるという報告がある。解約のタイミングは年金事務所に確認してからが安心
- 振込先は「請求する人の口座」故人の口座ではなく請求者名義の口座に振り込まれる。金融機関や口座種別によっては指定できない場合がある
- 時効は 5 年。ただし早めに動くほうが楽未支給年金を受ける権利は 5 年で時効消滅する。慌てる必要はないが、戸籍や仕送りの記録は時間が経つほど集めにくくなる
- 遺族年金の対象になるかも同時に確認する遺族厚生年金・遺族基礎年金は別の制度。要件を満たすなら同時に請求すると添付書類を兼ねられることがある
- 亡くなった月分までで、日割りはない「月末に亡くなったから 1 か月分もらえない」ということはない。逆に月初でも 1 か月分が対象になる
税金の扱い — 相続税ではなく「一時所得」
未支給年金は相続財産ではないので相続税はかかりません。 その代わり、国税庁は「遺族が支払を受ける未支給年金は、その遺族の固有の権利に基づいて 支払を受けるものなので、その遺族の一時所得の収入金額に該当する」としています。
一時所得は、その年の一時所得の総収入金額から、収入を得るために支出した金額を差し引き、 さらに特別控除(最高 50 万円)を引いた残りの 2 分の 1を他の所得と合算して課税されます。 そのため、他に一時所得がなく金額が特別控除の範囲に収まるようなケースでは、 結果として課税されないこともあります。
※ 年金額は加入歴によって大きく異なり、生命保険の一時金など他の一時所得と合算されると 結論が変わります。確定申告が必要かどうかは、税務署または税理士にご確認ください。 なお、遺族年金そのものは所得税・相続税とも非課税とされています。
ほかの死後手続きとの位置づけ
未支給年金は、親が亡くなった直後に集中する手続きのうちの 1 つです。 死亡届・健康保険・世帯主変更・準確定申告といった期限のある手続きの全体像は親が亡くなった後の手続きにまとめています。
また、金融機関が死亡を知ると故人の口座は凍結されます。葬儀費用や当面の生活費が必要なときは、口座凍結と仮払い制度もあわせて確認してください。 実家じまい全体の順番は時系列チェックリストで確認できます。
よくある質問
Q. 相続放棄をしたら、未支給年金も受け取れなくなりますか?
いいえ、相続放棄をしていても請求できます。未支給年金は、国民年金法 19 条・厚生年金保険法 37 条で「生計を同じくしていた遺族が自己の名で請求できる」と定められた、遺族固有の権利だからです。最高裁も平成 7 年 11 月 7 日の判決で、この規定は相続とは別の立場から一定の遺族に支給を認めたものであり、別途相続の対象になるものではないと判断しています。国税庁も同じ理解に立ち、未支給年金は相続税の課税対象ではないとしています。ただし相続放棄そのものの効果は個別事情で変わるため、判断に迷うときは家庭裁判所や弁護士・司法書士に確認してください。
Q. 別居していた親の未支給年金でも請求できますか?
請求できる場合があります。日本年金機構の手続きでは、住民票の住所が同じであれば「生計を同じくしていた」ことは住民票で確認できますが、住所が異なる場合は「生計同一関係に関する申立書」を提出し、生計同一関係を示す書類または第三者による証明を添えることになります。仕送りや医療費・施設費の負担、定期的な音信・訪問といった事実が確認材料になります。認められるかどうかは提出内容次第なので、通帳のコピーなど手元にある資料を持って、事前に年金事務所へ相談するのが確実です。
Q. 受け取った未支給年金に税金はかかりますか?
相続税はかかりません。一方、受け取った遺族の「一時所得」になると国税庁は説明しています。一時所得は、その年の一時所得の総額から収入を得るために支出した金額を差し引き、さらに特別控除(最高 50 万円)を引いた残りの 2 分の 1 を他の所得と合算して課税されるしくみです。そのため、未支給年金以外に一時所得がなく、金額が特別控除の範囲に収まる場合は課税されないこともあります。年金額は人によって異なり、他の所得との合算で結論が変わるため、申告が必要かどうかは税務署か税理士に確認してください。
※ 本記事は日本年金機構・厚生労働省・国税庁の公表情報をもとにした一般的な解説です。 手続きの要否・必要書類・期限は、加入していた制度やマイナンバーの収録状況、 年金事務所の運用によって変わります。個別の年金・税務の判断は、 年金事務所・税務署・税理士などの専門家にご相談ください。