なぜ「実家の承継」に遺言書が効くのか
遺言書がないと、実家を誰が継ぐかは相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます。 このとき相続人全員の実印と印鑑証明が必要で、一人でも 遠方・疎遠・非協力だと手続きが止まります。 遺言書で承継先が決まっていれば、この協議を経ずに名義変更や売却へ進めます。
実家は分けにくい資産です。「長男が住み続ける」「売って現金で分ける」など 方針を本人の言葉で残しておくと、共有名義を 避けやすく、きょうだい間のわだかまりも減らせます。 これは親が元気なうちに進める生前整理の 仕上げにあたる準備です。
遺言書が特に必要な人
誰にでも必須というわけではありませんが、次に当てはまる場合は 遺言書の効果が大きくなります。
- 子どものいない夫婦配偶者だけでなく、亡くなった人の親や兄弟姉妹も相続人になる。疎遠な親族の実印が必要になりやすい
- 独身・おひとりさま法定相続人がいない・疎遠だと、財産の行き先が定まらない
- 前婚の子や認知した子がいる現在の家族が把握していない相続人が手続きに加わる
- 相続人が多い・遠方・疎遠全員の合意と実印集めが実務上むずかしい
- 特定の人に実家を継がせたい「同居の子に家を」など、法定相続分と違う分け方をしたい
- 事業や不動産など分けにくい財産がある実家・農地・店舗など、分割しづらい資産の承継先を決めておきたい
※ 兄弟姉妹には遺留分がありませんが、子・配偶者・直系尊属には遺留分があります。 遺言書はこの点にも配慮して作る必要があるため、内容は専門家に確認するのが安全です。
遺言書 3 つの方式を比較
実務でよく使われるのは、自筆証書遺言・法務局の保管制度を使う自筆証書遺言・ 公正証書遺言の 3 つです。
| 方式 | 作り方・費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本文を自分で手書き(財産目録はパソコン可)。費用はほぼかからない | まず手軽に残したい。ただし形式不備・紛失・改ざんのリスクあり |
| 自筆証書遺言 + 法務局保管 | 自筆で書いて法務局に預ける。保管手数料 1 件 3,900 円(法務局) | 手軽さを保ちつつ、紛失・改ざんを防ぎたい。家庭裁判所の検認も不要に |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成・保管。証人 2 名が必要。財産額に応じた手数料 | 実家など重要資産を確実に承継させたい。無効になりにくい |
手軽さと確実さはトレードオフです。少額なら自筆証書+法務局保管、 実家のように大きく分けにくい資産が中心なら公正証書、というのが一つの目安になります。
2026 年の法改正 — 押印廃止とデジタル遺言
遺言制度は大きく変わろうとしています。2026 年 6 月に 「民法等の一部を改正する法律」が成立・公布され、次の 2 点が決まりました。
- 押印要件の廃止 — 自筆証書遺言などで求められていた押印が不要になります(公布から 1 年以内に施行予定)
- 保管証書遺言(デジタル遺言)の新設 — パソコン等での作成を想定した新しい方式(公布から 3 年以内に施行予定)
ただし、これらはまだ施行されていません(2026 年 7 月時点)。 「押印が廃止された」という情報を目にしても、今から書くなら、これまでどおり押印を含む現行ルールで作成するのが正解です。 施行時期や細かい要件は今後定められるため、最新の状況は法務省の案内や専門家で確認してください。
まず何から始めるか
いきなり完璧な遺言書を目指す必要はありません。 まずは重要書類・資産情報の把握で 「何を・誰に」の材料をそろえ、実家を誰にどう継がせたいかを本人と家族で話す。 方針が固まったら、内容の妥当性(遺留分など)を司法書士・弁護士に確認して形にする、 という順番が現実的です。
よくある質問
Q. 遺言書があると、実家の相続手続きはどう楽になりますか?
遺言書で「実家は誰が継ぐ」と決まっていれば、原則として相続人全員の実印・印鑑証明を集めた遺産分割協議をしなくても、指定された人が名義変更や売却の手続きを進められます。相続人が遠方・疎遠・多人数のときほど、この差は大きくなります。ただし遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)には配慮が必要です。
Q. 自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらがよいですか?
手軽さなら自筆証書、確実さなら公正証書です。自筆証書は自分で書けて費用も低い反面、形式不備で無効になったり、紛失・改ざんのリスクがあります(法務局の保管制度を使うとこのリスクは減らせます)。公正証書は公証人が関与するため無効になりにくく、原本が公証役場に保管されますが、費用と証人の手配が必要です。実家など重要な資産を確実に承継させたい場合は、公正証書が選ばれることが多いです。
Q. 2026 年に遺言書のルールが変わると聞きました。今書いても大丈夫?
大丈夫です。2026 年 6 月に改正法が成立・公布され、遺言書の押印廃止やデジタル遺言(保管証書遺言)の新設が決まりましたが、これらはまだ施行されていません(2026 年 7 月時点)。押印廃止は公布から 1 年以内、保管証書遺言は 3 年以内に施行される予定です。つまり今書くなら、これまでどおり押印を含む現行ルールで作成します。最新の施行状況は法務省の案内や専門家に確認してください。
※ 遺言書の有効要件・遺留分・具体的な文面は個別性が高い専門領域です。 実際に作成する際は、司法書士・弁護士・公証役場等にご相談ください。