この記事の要点(3 行)
- 成年後見制度を見直す民法等改正法が 2026 年 6 月 17 日に成立(6 月 24 日公布)。約 四半世紀ぶりの大改正です
- 後見・保佐・補助の 3 類型が「補助」に一元化され、必要がなくなれば終了できる仕組みへ
- ただし施行はまだ先(成年後見関係は公布から 2 年 6 か月以内 = 2028 年 12 月まで)。「改正を待つ」には注意が必要です
※ 本記事は 2026 年 7 月時点の情報です。施行時期や運用の詳細は今後の政令・規則等で 変わる可能性があります。
何が決まったのか — 改正法は「成立済み・施行前」
2026 年 4 月 3 日、成年後見制度の見直しなどを盛り込んだ 「民法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました。 法案は衆参両院で可決され、6 月 17 日に成立、6 月 24 日に公布されています (令和 8 年法律第 45 号。出典: 法務省)。
注意したいのは、成立と「使えるようになる」は別だという点です。 施行時期は内容ごとに分かれています。
| 改正内容 | 施行時期 |
|---|---|
| 成年後見制度の見直し(一元化・終了できる仕組み) | 公布から 2 年 6 か月以内(2028 年 12 月まで) |
| 自筆証書遺言の押印の任意化など | 公布から 1 年以内(2027 年 6 月まで) |
| 保管証書遺言(パソコン等で作成・法務局保管)の創設 | 公布から 3 年以内(2029 年 6 月まで) |
そもそも現行制度は何が「使いにくい」のか
成年後見制度は、認知症などで判断能力が不十分になった方の財産を守る大切な制度です。 一方で、使いにくさも長く指摘されてきました。利用者数は約 25.4 万人 (2024 年 12 月末時点。出典: 最高裁判所「成年後見関係事件の概況」)で、 認知症高齢者の数からすると、ごく一部にとどまっています。 私も調べていて、理由として挙げられる次の 3 点は「なるほど」と感じました。
1. 一度始めたら、原則やめられない(終身性)
現行制度では、いったん後見が始まると、本人の判断能力が回復しない限り、原則として本人が亡くなるまで続きます。 「実家を売るためだけに使いたかったのに、目的を果たした後もやめられない」 という声が、制度見直しの大きなきっかけになりました。
2. 報酬の負担が続く
後見人には家庭裁判所が決める報酬を本人の財産から支払います。 東京家庭裁判所が公表する目安では、専門職後見人の基本報酬は月額 2 万円(管理財産額が大きい場合は月額 3〜6 万円)。 仮に月 2 万円でも年 24 万円、10 年続けば 240 万円という計算になります。 新たに選ばれる後見人等の約 8 割は弁護士・司法書士など親族以外の第三者で (出典: 最高裁統計)、「家族が望んだ人が選ばれるとは限らない」という声もあります。
3. 支援の中身が画一的で、柔軟に使えない
現行の後見(判断能力を欠く常況)では後見人に広範な権限が及び、 「預金の引き出しだけ頼みたい」「実家の売却だけ手伝ってほしい」といった 部分的な使い方ができませんでした。 また、本人が住んでいた実家を売るには家庭裁判所の許可が必要で、 売却の必要性がないと判断されれば許可が下りないこともあります。 このあたりは親が認知症になると実家が売れないで 詳しく書いています。
改正のポイント — 現行制度とどう変わるか
確認できた範囲で、改正の柱を現行制度と並べてみます。
| 現行制度 | 改正後(施行前) | |
|---|---|---|
| 類型 | 後見・保佐・補助の 3 類型 | 後見・保佐を廃止し、「補助」に一元化 |
| 期間 | 原則、本人が亡くなるまで(終身) | 必要がなくなれば終了できる仕組みに(手続きの詳細は今後定められます) |
| 支援の範囲 | 類型ごとに画一的(後見は広範な権限) | 必要な事項ごとに支援を組み立てる、オーダーメード型に近づく |
| 任意後見との関係 | — | 任意後見契約との関係も見直し(詳細は今後の運用で具体化) |
| 遺言 | 自筆(全文手書き)+押印が原則 | 押印の任意化+パソコン等で作る保管証書遺言の新設 |
※ 「後見人の報酬がいくらになるか」「終了をどんな基準で認めるか」といった 運用の詳細は、施行までに最高裁判所規則や各裁判所の運用として示される見込みです。 本記事では確認できた法律の内容のみ記載しています。
実家じまいへの影響 — 「実家を売るためのスポット利用」ができるようになる可能性
実家じまいの文脈でいちばん大きいのは、期間の見直しだと私は思います。 これまでは「認知症の親の実家を売るために後見を申し立てると、 売却後も亡くなるまで後見と報酬負担が続く」ことが、 申立てをためらう最大の理由のひとつでした。
改正後は、たとえば「実家の売却」や「遺産分割」といった目的を果たしたら 終了する、という使い方に道が開かれます。 報道などでは「オーダーメード型」とも表現されており、 必要な支援だけを必要な期間だけ使える方向への転換です。
ただし、次の 2 点は現時点では分からない、というのが正直なところです。
- いつから使えるか — 施行は 2028 年 12 月までのどこか。それまでは現行制度のままです
- どこまで柔軟に認められるか — 終了を認める基準や、実家売却の許可の運用がどうなるかは、施行に向けた検討次第です
「改正で使いやすくなるらしいから、親の実家のことはそれまで保留」 と考えるのは、少し危ういかもしれません。
施行を待つ間にできる備え — 元気なうちの選択肢は今も有効
改正後の新制度も、あくまで判断能力が下がった「後」の受け皿です。 親が元気なうちに使える備えは、改正とは関係なく今から使えます。 むしろ施行までの 2 年あまりは、こちらを整えておく期間と考えるのがよさそうです。
- 実家をどうしたいか、親と話しておく住み続ける・施設に移る・売る…方針が共有されているだけで、いざというときの選択肢が大きく変わります。
- 通帳・保険・不動産などの書類の所在を共有する判断能力の低下後は、財産の全体像をつかむこと自体が難しくなります。
- 任意後見・家族信託など「元気なうちの制度」を検討するどちらも判断能力があるうちしか使えません。改正を待っている間に使えなくなるのがいちばん怖いパターンです。
- 遺言書を検討する押印任意化・保管証書遺言と、遺言はこれから作りやすくなる方向です。ただし待つ必要はなく、現行の法務局保管制度も十分実用的です。
それぞれの詳しい話は、親が元気なうちに始める実家じまい、実家の重要書類 7 分野、家族信託で実家を売る、実家を揉めずに継ぐための遺言書で書いています。 認知症による「預金口座の凍結」が心配な方は親の口座が凍結されるのはいつかも あわせてどうぞ。
よくある質問
Q. すでに成年後見を利用中です。改正法が施行されたら途中でやめられますか?
現時点(2026 年 7 月)では分かりません。改正法は成立・公布されましたが、成年後見に関する部分の施行は公布から 2 年 6 か月以内(2028 年 12 月まで)とされており、すでに利用中の方の扱い(経過措置)や、終了を認めるかどうかの具体的な運用はこれから示されます。利用中の方は、施行に向けた法務省・裁判所の発表を待ちつつ、気になる点は担当の専門職や家庭裁判所に確認してみてください。
Q. 改正を待ってから後見を申し立てた方が得ですか?
一概には言えません。新制度の施行日はまだ決まっていません(遅くとも 2028 年 12 月までに施行されます)。それまでの間に実家の売却や預金の引き出しが必要になれば、現行制度で対応するしかありません。また、親の判断能力が下がってからでは、任意後見や家族信託、遺言といった「元気なうちの備え」は使えなくなります。待つこと自体にリスクがあるため、急ぐ事情がある場合は司法書士・弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
Q. パソコンで作る遺言書(デジタル遺言)はもう使えますか?
まだ使えません。今回の改正で創設される「保管証書遺言」(パソコン等で作成し法務局が保管する遺言)の施行は公布から 3 年以内(2029 年 6 月まで)とされています。それまでは従来どおり、自筆証書遺言(法務局の保管制度あり)か公正証書遺言を使うことになります。なお、自筆証書遺言の押印を不要にする改正は公布から 1 年以内に施行される予定です。
※ 本記事は法務省・最高裁判所などの公表資料に基づく一般的な制度解説です(2026 年 7 月時点)。 個別のケースで後見の申立てや任意後見・家族信託を検討する場合は、 司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。相談先の使い分けも参考にどうぞ。
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