数次相続とは — 登記を放置している間に、次の相続が始まってしまうこと

祖父が亡くなったときに実家の名義を変えないままにしていた。そのうち父も亡くなった。 — このように、前の相続の手続きが終わらないうちに次の相続が始まってしまった状態を、 登記の実務では「数次相続」と呼びます。 法務局が公開している登記申請書の記載例にも「遺産分割(数次相続)」という専用の様式があります。 そこでは「第 1 の相続が開始し、その相続の登記が未了の間に、その相続人が死亡して 第 2 の相続が開始した場合のもの」と説明されています (出典: 法務局「不動産登記の申請書様式について」)。

この記事では、祖父・曾祖父の代の名義のまま何十年も放置されてきた実家をどう動かすか、 という場面に絞って整理します。 制度の期限そのものは相続登記の義務化のルール、 1 回で済む普通の相続の申請手順は相続登記を自分でやる手順にまとめてありますので、 あわせてどうぞ。

放置のいちばん怖いところは、過料でも手数料でもなく、話し合いに参加してもらわなければならない人が、時間とともに増え続けることです。 しかも増え方が、多くの方の直感と少しずれています。次の章で見ていきます。

数次相続と代襲相続の違い — 「長男の妻」が当事者になるかどうか

「孫が代わりに相続するあれでしょう」と混同されやすいのが代襲相続ですが、 この 2 つは誰が遺産分割の当事者になるかがまったく違います。 分かれ目は「亡くなった順番」だけです。

代襲相続は、被相続人より先に子が亡くなっていた場合の話です。 民法 887 条 2 項は「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき(中略)は、その者の子がこれを代襲して相続人となる」 と定めていて、亡くなった子の直系卑属(孫)だけが相続人になります。 子の配偶者は入りません。

一方、数次相続は被相続人が亡くなった後に相続人が亡くなったケースです。 この場合、中間の人はいったん相続人の地位を取得しています。 そして民法 896 条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」 と定めているため、その地位はさらにその人の相続人へ引き継がれます。 民法 890 条により配偶者は常に相続人になりますから、 結果として中間で亡くなった方の配偶者 — たとえば長男の妻 — も遺産分割協議の当事者になります

代襲相続数次相続(この記事のテーマ)
いつ亡くなったか子が親より先に死亡子が親より後に死亡(相続開始後)
根拠民法 887 条 2 項民法 896 条(相続人の地位の承継)+ 890 条ほか
相続人になるのは亡くなった子の子(孫)などの直系卑属亡くなった子の相続人全員
子の配偶者(長男の妻)は当事者にならない当事者になる
実務上の重さ相続関係は 1 段で済む相続が段数だけ重なり、当事者が枝分かれして増える

※ 条文は e-Gov 法令検索(民法)に基づく一般的な整理です。 実際に誰が相続人になるかは戸籍をたどって確定する必要があり、 個別の判断は司法書士・弁護士にご確認ください。

私がこの違いを知って一番ひやりとしたのは、「同じ家族なのに、亡くなる順番が入れ替わるだけで、印鑑をもらう相手が変わる」という点でした。 疎遠だった義理の関係の方に何十年ぶりに連絡して実印を押してもらう — これが数次相続でいちばん現実的にしんどい部分だと思います。

放置した実家で実際に起きること

代替わりが 2 回、3 回と重なると、当事者はねずみ算式に増えていきます。 そして厄介なことに、その全員が「実家をよく知っている親族」とは限りません。 面識のない人、遠方の人、海外にいる人が混ざってきます。

どのくらい増えるのかは家族構成次第で、 ネット上には「相続人が数十人になった」という体験談も見かけます。 私自身が数を確認できたわけではないので具体的な人数は書きませんが、制度の側もそうした事態を想定していることは公表資料から読み取れます。 法務省の「相続登記の申請義務化に関する Q&A」では、登記義務を果たせない 「正当な理由」の例のひとつとして「相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合」が挙げられています(出典: 法務省)。国が例示するくらいには、起こることなのだと思います。

この「価値が低いほど放置されやすく、放置されるほど動かせなくなる」構図は、 田舎の空き家や山林でとくに起きやすいのだろうと思います。 誰も欲しがらないから登記を急がず、急がないうちに当事者が増える。 手放す側の選択肢は田舎の実家が売れないときの 5 つの選択肢相続土地国庫帰属制度にまとめていますが、どの出口を選ぶにしても、まず名義を整えないと入口に立てません

もうひとつの時限装置 — 相続開始から 10 年で「取り分の主張」が変わる

放置のコストは登記だけではありません。 2023 年 4 月 1 日に施行された民法 904 条の 3 は、相続開始の時から 10 年を経過した後にする遺産分割には、 特別受益(民法 903 条・904 条)と寄与分(904 条の 2)の規定を適用しないと定めています。 なお、家庭裁判所に遺産分割を請求していた場合などの例外があります (出典: e-Gov 法令検索)。

つまり、「兄は生前に家の頭金を出してもらっていた」「私は最後まで介護をした」といった 個別の事情を持ち出して取り分を調整する道が、10 年を過ぎると原則として使えなくなり、 法定相続分を基準に分けることになります。 何十年も止まっている相続は、この 10 年をとうに過ぎていることが多いはずです。 ご自身のケースで何が主張できるのかは争いに直結する話なので、相続の相談先ガイドを参考に、 早めに弁護士へ相談してください。

放置された実家を動かす流れ

やることの順番自体は、普通の相続登記と大きく変わりません。 変わるのは「相続人の確定」に入る前の調査量と、連絡・合意にかかる時間です。

  1. 1
    登記事項証明書で「今の名義人」を確かめる即日

    法務局で誰でも取得できる。ここで初めて祖父・曾祖父名義だと分かるケースが多い

  2. 2
    亡くなった方ごとに戸籍を集める数週間〜数か月

    名義人の出生から死亡までの戸籍に加え、代替わりした人の分も必要。2024 年からは最寄りの市区町村での広域交付も使える

  3. 3
    相続関係説明図を作り、当事者を確定する

    法務局の数次相続の記載例にも説明図の見本がある。誰の実印が要るかがここで見える

  4. 4
    連絡がつかない人の住所を調べ、連絡を取る

    戸籍の附票などをたどる。面識のない相手には、事情と意向を書いた手紙から始めるのが現実的

  5. 5
    遺産分割協議 — 当事者全員で合意する数か月〜

    全員の実印と印鑑証明書が必要。まとまらなければ家庭裁判所の調停へ

  6. 6
    相続登記を申請する

    中間の相続が単独かどうかで、申請が 1 件で済むか 2 件以上になるかが変わる(次章)

遺産分割協議書そのものの書き方は遺産分割協議書の書き方で解説しています。 ただし数次相続では、亡くなった方が「相続人であり、かつ被相続人でもある」という 少し特殊な立ち位置になり、記載も通常より複雑になります。 この形の書面は法務局に一般向けの雛形が用意されていないので、司法書士に作成してもらう前提で考えた方が安全だと思います。

全員がまとまらない、連絡自体を拒まれる、といった段階に入ると、 そこから先は紛争の領域です。共有名義の実家を売るにはでも触れていますが、 話し合いで動かないときの手段(調停・審判など)の選択は弁護士に相談してください。

登記は何回必要か — 「1 件にまとめられる」条件

祖父 → 父 → 自分と 2 段の相続があるなら、登記も 2 回必要になるのが原則です。 ただし一定の場合には、中間の登記を省いて最終的に取得する人へ 1 件の申請でまとめられる扱いがあります(いわゆる中間省略)。

その条件について、法務局の「遺産分割(数次相続)」の記載例には、こう明記されています。

最終の相続以外の相続について、共同相続人数名が権利を取得している場合には、 一件の申請では登記することができません。

出典: 法務局「不動産登記の申請書様式について」所有権移転登記(相続・遺産分割(数次相続))の記載例。

裏返すと、中間の段階で権利を取得したのが 1 人だけなら 1 件で申請できるという整理になります。 もともと相続人が 1 人だった場合のほか、 遺産分割協議や相続放棄の結果として中間の取得者が 1 人になった場合も含まれる、 というのが実務上の一般的な説明です。 ただしこれは事案ごとの判断になるため、 自分のケースで 1 件にまとめられるかどうかは司法書士に確認してください。

なお、1 件でまとめる場合の申請書は、登記原因の欄が 2 行になります。 法務局の記載例では、1 行目に第 1 の被相続人の死亡日と中間の相続人の氏名+「相続」、 2 行目に第 2 の相続(中間の相続人の死亡日)と「相続」を書く形が示されています (例:「平成 2 年 3 月 21 日法務春夫相続 / 令和 7 年 6 月 20 日相続」)。 自分で申請するつもりの方は、この様式と注記を必ず先に読んでおくことをおすすめします。

費用と税金 — 数次相続だから使えるもの

手続きが増える一方で、数次相続だからこそ用意されている軽減措置もあります。 代表的なものを 3 つ挙げます。いずれも一般的な制度の紹介で、 個別の税額の判断はできませんので、税金については税理士または税務署にご確認ください。

1. 中間の名義にする土地の登録免許税は免税(令和 9 年 3 月 31 日まで)

相続によって土地の所有権を取得した人が、その相続登記を受ける前に亡くなった場合、その亡くなった人を登記名義人とするための相続登記には登録免許税がかかりません(租税特別措置法 84 条の 2 の 2 第 1 項)。 適用期間は平成 30 年 4 月 1 日から令和 9 年(2027 年)3 月 31 日までとされています(出典: 法務局)。

注意点は 3 つあります。対象は土地だけで建物は含まれないこと期限が区切られていること、そして申請書に「租税特別措置法第 84 条の 2 の 2 第 1 項により非課税」と根拠条項を書かないと適用されないことです。 法務局のページでも、記載がない場合は免税措置を受けられないと注意されています。 通常の相続登記の登録免許税は固定資産税評価額の 0.4%(1000 分の 4)なので、 この免税があるかどうかで負担はそれなりに変わります。費用の全体像は実家の名義変更にかかる費用にまとめています。

※ この免税措置は、以前は「租税特別措置法 84 条の 2 の 3」の条番号で案内されていました。 古い解説を見るときは条番号のずれにご注意ください(本記事は 2026 年 7 月時点の法務局の表記に合わせています)。

2. 相次相続控除(相続税・10 年以内)

短い間隔で相続が重なると、同じ財産に相続税が続けてかかることになります。 これを緩和するのが相次相続控除です。今回の相続開始前 10 年以内に、被相続人が相続などで財産を取得して相続税が課されていた場合に、 前回の相続税額のうち 1 年につき 10% の割合で逓減した後の金額を、 今回の相続税額から控除できます(出典: 国税庁タックスアンサー No.4168)。

控除を受けられるのは被相続人の相続人に限られ、 相続放棄をした人や相続権を失った人は対象外とされています。 そもそも相続税がかかる規模かどうかから変わってくる話なので、 該当しそうなら税理士に確認してください。

3. 相続税の申告期限が延びる場合がある

相続税の申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から 10 か月以内」です (相続税法 27 条 1 項)。 同条 2 項は、この期限前に申告書を提出すべき人が提出しないまま亡くなった場合の 扱いを定めています。 その人の相続人が、「その相続の開始があったことを知った日の翌日から 10 か月以内」に 亡くなった人の申告書を提出するという内容です(出典: e-Gov 法令検索)。

つまり、亡くなった方の分の申告について期限が数えなおしになるということです。 ただしこれは提出義務を引き継いだ人についてのルールで、 他の相続人の期限まで一律に延びるわけではありません。 相続税の申告が絡む数次相続は、期限管理そのものが複雑になります。 税額が出そうな場合は早めに税理士へ相談してください。

参考: 相続放棄を考えている場合(再転相続)

借金しか残っていないなど、そもそも相続したくない場合はどうか。 民法 916 条は「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、 その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する」と定めていて、 熟慮期間(民法 915 条 1 項の 3 か月)の起算点が読み替えられます。

この規定について最高裁は、1 次相続と 2 次相続それぞれについて 各別に熟慮し承認・放棄をする機会を保障する趣旨だとしています。 そのうえで、2 次相続(中間の方自身の相続)を放棄すると、 1 次相続について承認・放棄を選ぶ立場そのものを失うという考え方を示しました (最高裁昭和 63 年 6 月 21 日第三小法廷判決)。 放棄の順序で結論が変わる、扱いの難しい論点です。 相続放棄の基本は実家を相続したくないときの相続放棄にまとめています。 ただし数次相続が絡む放棄の可否・順序は、必ず弁護士または司法書士に相談してから動いてください。

相続登記の義務化との関係 — 期限とその場しのぎの手段

2024 年 4 月 1 日から相続登記は義務になりました。 不動産登記法 76 条の 2 は、所有権を取得したことを知った日から 3 年以内の申請を義務づけ、 同法 164 条 1 項は、正当な理由なく怠った場合に 10 万円以下の過料に処すると定めています。 そして施行日より前に開始した相続で未登記のものも対象で、 法務省は令和 9 年(2027 年)3 月 31 日までの登記が必要としています。 期限の数え方は相続登記の義務化とはで詳しく整理しています。

とはいえ、当事者が数十人という状態で 3 年以内に協議をまとめるのは簡単ではありません。 そのための簡易な手段が相続人申告登記です(不動産登記法 76 条の 3)。 自分が登記名義人の相続人であることを法務局に申し出るもので、 法務省は「特定の相続人が単独で申出可」「登録免許税がかからない」「法定相続人の範囲・ 法定相続分の割合の確定が不要」と案内しています。 期限内に申し出れば、申し出た人については登記申請義務を履行したものとみなされます(同条 2 項)。

相続登記(本来の手続き)相続人申告登記
誰でできるか遺産分割協議の当事者全員の合意が前提特定の相続人が単独で申出可
登録免許税固定資産税評価額の 0.4%(数次相続の土地は免税措置あり)かからない
必要な調査相続人全員の確定が必要法定相続人の範囲・相続分の確定は不要
登記義務果たせる申し出た人については果たしたとみなされる
売却・抵当権設定できるできない(別途、相続登記が必要)

※ 法務省「相続人申告登記について」「相続登記の申請義務化に関する Q&A」、 および不動産登記法 76 条の 2・76 条の 3・164 条に基づく整理です。

相続人申告登記は、あくまで時間を稼ぐための手段です。 実家を売る・貸す・解体するつもりなら、結局は遺産分割を経た相続登記が要ります。 それでも、当事者を探している最中に過料の心配まで抱えなくて済むのは大きいと思います。

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手続き全体の段取りは実家じまいチェックリスト、 誰に何を頼むかの整理は相続の相談先ガイドをご覧ください。

よくある質問

Q. 祖父名義のままの実家です。父も亡くなっているのですが、私だけで登記できますか?

「祖父の相続で誰がその不動産を取得するか」を決める遺産分割協議には、祖父の相続人の地位を引き継いだ人が全員参加する必要があります(民法 896 条)。お父さまが亡くなっている場合、その地位はお父さまの相続人 — お母さま(祖父から見れば子の配偶者)やご兄弟 — に引き継がれているため、あなた 1 人では協議を成立させられないのが原則です。ただし、結果としてあなたが 1 人で取得すること自体は珍しくありません。誰が当事者になるかは戸籍をたどって確定する必要があるので、まず登記事項証明書で現在の名義を確認したうえで、司法書士に相続人の範囲を整理してもらうのが確実です。

Q. 相続登記を 2 回分やると、登録免許税も 2 回かかりますか?

土地については、免税措置が用意されています。相続で土地を取得した人が、その相続登記を受ける前に亡くなった場合、その亡くなった人を登記名義人とするための相続登記には登録免許税がかかりません(租税特別措置法 84 条の 2 の 2 第 1 項。令和 9 年 3 月 31 日までの登記が対象)。ただし対象は土地に限られ、建物は含まれません。また、申請書に「租税特別措置法第 84 条の 2 の 2 第 1 項により非課税」と根拠条項を記載しないと適用されない点にも注意が必要です(出典: 法務局)。司法書士に依頼する場合の報酬は、手続きが 2 件になれば増えるのが一般的です。

Q. 何十年も前の相続でも、今から登記しなければいけませんか?

対象になります。2024 年 4 月 1 日から相続登記は義務化され、施行日より前に開始した相続で未登記のものも対象で、令和 9 年(2027 年)3 月 31 日までに登記が必要とされています。正当な理由なく怠ると 10 万円以下の過料の対象になり得ます(不動産登記法 76 条の 2・164 条 1 項、出典: 法務省)。ただし法務省の Q&A では「相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合」が正当な理由の一例として挙げられています。放置していた実家ほどこれに当たり得ますが、自己判断せず、まずは相続人申告登記で義務を果たしておく方法もあります。

※ 本記事は法務省・法務局の公表資料、e-Gov 法令検索の条文、国税庁タックスアンサーに基づく 一般的な制度解説であり、個別の法律判断・登記手続の判断・税額の判断はできません。 数次相続は相続人の範囲の確定から登記の組み立てまで事案ごとに結論が変わる領域です。 登記の手続きは司法書士、遺産分割で争いがある場合は弁護士、 相続税が関わる場合は税理士または税務署にご相談ください。 制度の内容は 2026 年 7 月時点のものです。