持ち続けるなら、まず収支を直す
底地を相続したときの話は、 どうしても「売るか、持ち続けるか」という出口の話になりがちです。 ただ、出口が決まるまでには時間がかかります。 その間ずっと赤字を垂れ流すのか、それとも収支を直してから考えるのかで、 手元に残るものはかなり変わります。
古い借地では、地代が契約当時の水準のまま何十年も据え置かれていることが珍しくありません。一方で固定資産税は評価替えで動きます。 結果として、地代より税金のほうが高い「逆ざや」になっていることがあります。 持っているだけで毎年お金が出ていく状態です。
執筆担当の実体験
私が相続した底地も、地代が固定資産税を下回っていた時期がありました。 祖父の代から 60 年以上貸したままで、そのあいだ地代がほとんど見直されていなかったからです。 10 年前に親が相続したときに司法書士へ入ってもらい、 固定資産税から計算し直して契約を変更したことで、ようやく赤字は解消しました。相続はこれを直す数少ないきっかけになります。 名義や振込先の連絡をどのみちすることになるので、話を切り出す理由が自然に立つからです。
地代を見直せる理由 — 借地借家法 11 条
地代の増減は、当事者が自由に決められる代わりに、不相当になったときは増減を請求できると法律に定められています (借地借家法 11 条 1 項)。判断の材料は次の 3 つです。
- 土地に対する租税その他の公課の増減 — 固定資産税・都市計画税が上がった/下がった
- 土地の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動
- 近傍類似の土地の地代等との比較 — 近所の似た条件の借地と比べて不相当か
逆ざやは 1 つめに正面から当たりうる事情です。 ただし「一定の期間は増額しない」という特約があるときは、その期間中は増額請求ができません(同項ただし書)。まず契約書を確認してください。
※ 実務では「固定資産税・都市計画税の何倍」という考え方(公租公課倍率法)がよく使われますが、倍率が法律で決まっているわけではありません。 近隣の水準や土地の条件を踏まえて個別に判断されるものなので、 具体的な金額は不動産鑑定士・弁護士にご相談ください。
進め方 — いきなり裁判にはならない
- 1契約書と課税明細を並べる
契約期間・地代・増額しない特約の有無。固定資産税と都市計画税の実額を確認する
- 2適正な水準を調べる
近隣の地代水準と公租公課から目安を出す。専門家に入ってもらうと根拠が立つ
- 3借地人に協議を申し入れるまずはここ
通知した時点から効力が生じるのが原則。感情的な通告にせず、根拠を示して話す
- 4まとまらなければ調停
訴えの前に民事調停の申立てが必要(調停前置主義)。調停委員が間に入る
- 5それでも決まらなければ訴訟最終手段
不動産鑑定が必要になることが多く、費用と期間がかかる
知っておきたい「確定するまで」の扱い
増額を請求しても、その日から新しい地代が自動的に入るわけではありません。 協議が調わないあいだ、借地人は「相当と認める額」を支払えば足りるとされています (借地借家法 11 条 2 項)。従来どおりの額を払い続けても、それ自体で契約違反にはならないということです。
ただし、あとで増額を正当とする裁判が確定したときは、不足額に年 1 割の割合による利息を付けて支払うことになります。 逆に地主が減額請求を受けた場合も同じ構造で、 受け取りすぎた分には年 1 割の利息を付けて返すことになります(同条 3 項)。
| 確定するまで | 確定した後 | |
|---|---|---|
| 増額を請求した(地主) | 借地人は「相当と認める額」を払えば足りる | 不足額 + 年 1 割の利息を受け取る |
| 減額を請求された(地主) | 地主は「相当と認める額」を請求できる | 超過額 + 年 1 割の利息を返す |
費用対効果を先に計算する
調停や訴訟まで進むと、不動産鑑定の費用や弁護士費用がかかります。 一方で、増額できる幅は月あたりで見れば大きくないことが多い。「増えた分で費用を回収するのに何年かかるか」を先に出しておくと、 どこまでやるかの判断がぶれません。
逆ざやを解消するだけなら、話し合いの段階で決着することもあります。 借地人にとっても、地主が赤字のまま放置された借地は、 いずれ底地ごと第三者に売られる可能性がある という点で不安定です。双方に「今のままは困る」という共通点があるのは、 交渉の材料になります。
更新のタイミングも見直しの機会
借地契約の更新は、条件を確認し直す自然な節目です。 1992 年 8 月 1 日より前に結ばれた契約には旧借地法が適用され続け、 更新後の期間も旧法によります。詳しくは底地を相続したらどうするの 「旧借地法という前提」で整理しました。
借地人側から見た同じ場面は借地に建つ実家の処分にまとめています。 相手がどう考えているかを知っておくと、交渉の見通しが立てやすくなります。
よくある質問
Q. 地代が固定資産税より安いのですが、そんなことがあるのですか?
あります。地代は契約時の水準のまま何十年も据え置かれることがある一方、固定資産税は評価替えで変わります。長く見直していない借地では、地代収入より固定資産税・都市計画税のほうが多い「逆ざや」になっていることがあります。この状態は借地借家法 11 条 1 項が増額請求の理由に挙げる「土地に対する租税その他の公課の増減」に当たりうるため、見直しを検討する典型的な場面です。ただし、あてはまるかどうかは契約内容によるので、弁護士・不動産鑑定士にご確認ください。
Q. 増額を通知したら、その月から新しい地代をもらえますか?
いいえ。増額請求をしても、協議が調わないあいだ、借地人は「相当と認める額」を支払えば足りるとされています(借地借家法 11 条 2 項)。つまり借地人が従来どおりの額を払い続けても、それ自体は債務不履行になりません。ただし、あとで増額を正当とする裁判が確定した場合には、不足額に年 1 割の割合による利息を付けて支払うことになります。
Q. 話し合いがまとまらない場合、すぐに裁判できますか?
できません。地代の増減額請求について訴えを起こそうとする人は、先に民事調停を申し立てなければならないとされています(民事調停法 24 条の 2 第 1 項。調停前置主義)。調停を経ずに訴えを提起した場合、裁判所は原則としてその事件を調停に付します。まず話し合い、次に調停、それでも決まらなければ訴訟、という順番になります。
Q. 一度も値上げしていないと、もう請求できませんか?
長く据え置いてきたこと自体で権利が消えるわけではありません。ただし「一定の期間は増額しない」という特約がある場合、その期間中は増額請求ができないと定められています(借地借家法 11 条 1 項ただし書)。まず契約書にそうした特約がないかを確認してください。契約書が見当たらない場合の扱いは個別性が高いので、専門家にご相談ください。
※ 本記事は地代の増減額に関する一般的な制度の解説です。 実際に増額できるか、いくらが適正かは契約内容と個別の事情によります。 具体的な交渉・調停・訴訟は、弁護士・不動産鑑定士等の専門家にご相談ください。