結論: 話し合いで決まらなくても、共有関係を解消する制度はある
共有名義の実家を売るにはでお伝えしたとおり、共有名義の不動産を売却・解体するには共有者全員の同意が必要です。 裏を返せば、共有者が 1 人でも反対したり、意見が対立したまま何年も動かなかったりすると、 実家は「誰の物でもあり、誰の自由にもならない」状態のまま止まってしまいます。
この記事では、実際に話し合いが決裂した(あるいはこじれつつある)ケースを前提に、 法律上どういう選択肢が残っているかを整理します。中心になるのは民法が定める 「共有物分割請求」という制度です。ただし、個別の事案でどの結果になるかを判断するのは 弁護士の領域であり、当サイトでは一般的な制度の説明にとどめます。
おさらい: 共有名義の意思決定ルールは「処分」と「管理」で違う
民法は共有物への関わり方を大きく 3 段階に分けています。売却や解体のような 「処分行為」は共有者全員の同意が必要です。一方、令和 3 年の民法改正 (2023 年 4 月施行)で明確になったのが「管理行為」の範囲です。建物の使い方を大きく変えない リフォームなど、共有物の形状・効用を著しく変えない変更であれば、共有者全員ではなく、 各共有者の持分の価格の過半数で決められます(民法 251 条・252 条)。 「頭数」の過半数ではなく「持分割合」の過半数である点に注意してください。たとえば 兄弟 2 人で持分が 1/2 ずつなら、1 人が反対すれば管理行為も決まらないことになります。
もう 1 つ知っておきたいのが、共有者は自分の持分だけなら、他の共有者の同意なしに 単独で売却できるという点です。これが後述する「持分だけの売却」トラブルの土台になっています。
話し合いが決裂したときの 3 つの分割方法
協議がまとまらないとき、共有者は裁判所に共有物の分割を請求できます(民法 258 条)。 裁判所が選べる分割方法は次の 3 つです。
| 方法 | 内容 | 実務上の傾向 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産そのものを物理的に分ける | 土地なら分筆できることもありますが、一戸建てはそのまま切り分けられないため、 選ばれにくい方法です |
| 代償分割(価格賠償) | 1 人(または一部)が不動産を取得し、他の共有者へお金(代償金)を払う | 住み続けたい共有者に資力があれば、実務でよく選ばれる方法です |
| 換価分割(競売) | 裁判所の関与のもとで売却し、代金を持分に応じて分ける | 現物分割も代償分割も難しい場合の最終手段です。裁判所の競売は市場での任意売却より 安値になりやすいとされ、そうなる前に任意売却で折り合える方が望ましいとされています |
このように、共有物分割請求は「必ず競売になる」制度ではありません。ただ、一戸建てである実家は 現物分割が難しいことが多いため、代償分割か換価分割のどちらかに進むケースが多いようです。
実際の流れ: 協議 → 調停 → 訴訟
共有物分割は、必ず調停を経てから訴訟、という決まった順番があるわけではありません。 話し合いがまとまらなければ、調停を挟まずに訴訟へ進むことも制度上は可能です。 とはいえ、いきなり訴訟にするとその後の関係修復が難しくなるため、実務では次のような 段階を踏むことが多いようです。
- 1共有者間での話し合い(協議)
数字(査定額・維持費)を共有者全員で同じ土台にそろえるところから
- 2共有物分割調停(任意)
裁判所を挟んだ話し合い。全員が合意すれば成立するが、法律上は必須の手続きではない
- 3共有物分割請求訴訟地方裁判所
共有者全員を当事者として提起。判決で現物分割・代償分割・競売のいずれかが命じられる
- 4登記・売却代金の分配など事後手続き
判決や合意で終わりではなく、名義変更(登記)や換価代金の分配まで実務が続く
売却して分ける場合の名義変更や、代償分割で単独名義にする場合の登記は、 いずれも相続登記の手順と共通する部分が多くあります。
「持分だけ売られてしまった」ときに起きること
共有者の 1 人が生活に困っていたり、他の共有者と連絡が取れなかったりする場合、 自分の持分だけを不動産会社(持分専門の買取業者)に売却してしまうことがあります。 この売却自体は他の共有者の同意なしに成立してしまうため、ある日突然、 面識のない業者が共有者になっている、という状態が起こり得ます。
持分を取得した業者は、他の共有者との話し合いがまとまらない場合、共有者としての権利に基づいて 共有物分割請求訴訟を起こすことがあります。その結果として競売(換価分割)が命じられれば、 それまで住んでいた共有者が家を明け渡すことになる可能性もあります。 老朽化した実家に共有者の 1 人が単独で住み続け退去を拒んでいたケースで、 弁護士が換価分割を提案する書面を送ったことで話し合いが進んだ、という報告もあります。 こうした事情は個々の家庭や資力によって大きく異なるため、経済的に困っている共有者が 一方的に悪いというより、共有名義という所有形態そのものが抱える構造的なリスクとして 捉えたほうがよいと思います。
決裂する前にできる予防・防御策
持分だけの売却は、いったん実行されてしまうと後から取り消すのが難しい行為です。 こじれる前、あるいは気配を感じた段階でできることを 3 つ挙げます。
- 他の共有者の持分を買い取っておく単独名義にしてしまえば、持分の勝手な売却リスクはなくなります。3 つの対策の中で最も確実です
- 持分譲渡制限の合意書を作る(ただし限界がある)共有者間で「持分を第三者に売らない」と約束する書面です。合意した共有者同士は守る義務を負いますが、登記のような公示の仕組みがないため、実際に持分を買い受けた第三者(業者など)には対抗できないとされています。抑止力にはなっても、絶対的な防御策ではありません
- 使用方法を覚え書きにしておく「誰がどう使うか」「維持費は誰が負担するか」を書面化しておくと、後日の話し合いや調停・訴訟になった際の材料になります
放置するとどうなるか
共有名義のまま何も決めずに時間が経つと、リスクは 2 方向で膨らみます。1 つは、 共有者の誰かが認知症などで判断能力を失うと、その人抜きでは売却の合意すら整わなくなる点です (こちらは共有名義の基本記事の FAQ で扱っています)。 もう 1 つは、共有者の 1 人が亡くなるたびに、その持分がさらに子や孫へと分かれて相続され、 共有者の数がねずみ算式に増えていく点です。これは数次相続と呼ばれる状態で、 共有者が増えるほど全員の合意はさらに遠のきます。
よくある質問
Q. 共有者の 1 人が、自分の持分だけを買取業者に売ってしまいました。今の家に住み続けられますか?
持分の売却自体は他の共有者の同意がなくてもできてしまうため、有効な取引として成立します。その後、持分を買った業者が共有者の 1 人として「共有物分割請求」を起こし、裁判所が競売(換価分割)を命じた場合は、最終的に住んでいる家を明け渡す必要が生じることがあります。ここまで来ると個別の権利関係の判断が必要な段階なので、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
Q. 共有物分割請求をされたら、必ず家を売る(競売にかける)ことになるのですか?
民法上は現物分割・代償分割・換価分割(競売)の 3 通りがあり、競売と決まっているわけではありません。ただし一戸建てはそのまま物理的に分けにくいため、現物分割が選ばれることは少なく、実務では代償分割(誰かが住み続けて他の共有者へお金を払う)か、換価分割(売って分ける)のどちらかに落ち着くケースが多いとされています。どちらになるかは個別の事情次第なので、弁護士に相談しながら進める話になります。
Q. 弁護士に相談・依頼するとき、事前に確認しておいたほうがいいことはありますか?
共有物分割は「話し合いで解決する」「調停で解決する」「訴訟の判決が出る」のどの段階で終わっても、その後に不動産の名義変更(登記)や売却代金の分配といった実務が残ります。事務所によって、合意や判決が出た時点までを契約範囲としているところと、登記・売却・現金化まで一貫してサポートしてくれるところがあるため、依頼前に「どこまで対応してもらえるのか」を確認しておくと、後で困りにくいと思います。
※ 本記事は共有物分割請求に関する一般的な制度の解説です。実際にどの分割方法が選ばれるか、 個別の事案の見通しについては、事実関係や共有者の状況によって大きく変わるため、 当サイトではお答えできません。弁護士にご相談ください。