結論 — 実家の土地は、形や使い方次第で評価額が下がる場合がある

相続税の申告で実家の土地の評価額を下げる方法というと、小規模宅地等の特例(同居していた親族などが相続すると評価額が最大 8 割減る制度)を思い浮かべる方が多いはずです。 ただしこの特例は「誰が相続するか」で適用の可否が決まる制度で、 配偶者も同居親族も家なき子もいない、あるいは要件を満たせない場合は使えません。

一方で、相続税の土地評価には「土地そのものの形状・利用状況」に応じた評価減が 別に用意されています。形がいびつ、前面が私道、アパートとして人に貸している — こうした事情があると、国税庁の財産評価基本通達に基づいて評価額を減らせる場合があります。 これらは小規模宅地等の特例とは独立した制度なので、特例が使えない土地でも検討できますし、特例と重ねて使えるのが特徴です。 代表的な評価減を整理すると、次のようになります。

評価減の種類対象になりやすい土地主な確認資料
不整形地補正・奥行/間口の補正三角形・旗竿地など形がいびつな土地、極端に細長い・狭い土地登記簿の地積測量図、路線価図
私道の評価(0%・30%・100%)前面や敷地内に私道(通路)がある土地名寄せ帳、道路台帳(役所)
貸家建付地評価アパート・貸家を建てて人に貸している土地賃貸借契約書、賃貸割合の資料
売却価格・不動産鑑定評価通達評価額が実勢価格より明らかに高いと考えられる土地(例外的な方法)売買契約書、鑑定評価書

※ どの評価減が使えるかは土地ごとの個別事情によって判定が分かれます。 この記事は制度の存在と考え方を紹介するもので、適用の可否・具体的な減額幅の判断は税理士に確認してください。

そもそも相続税の土地評価はどう決まるか — 路線価と実勢価格のズレ

相続税の土地評価は、実務のほとんどが「路線価方式」で行われます。 国税庁の路線価図に定められた道路ごとの 1 平米あたりの価格に、土地の面積や形状に応じた 補正を掛けて評価額を算出する方法です(路線価のない地域では固定資産税評価額に一定の倍率を 掛ける「倍率方式」を使います)。

この路線価は、毎年 1 月 1 日時点の公示価格のおおむね 8 割を目安に国税庁が設定しているとされます。 さらに公示価格と実際の売買価格(実勢価格)にも差が生じることがあるため、相続税の評価額と、実家を売ったときの手取りの目安となる金額は、そもそも別の物差しだと理解しておく必要があります。 自分の実家がいまどのくらいで売れそうかは、実家売却の流れの記事でも触れている査定で 把握しておくと、評価額の水準感をつかみやすくなります。

評価額を自分で計算・確認する際は、次の 3 つの資料が土台になります。

財産・書類の集め方全般は親が亡くなった後の財産・借金の調べ方でも整理しています。

形がいびつな土地 — 奥行・間口の補正と不整形地補正

正方形や長方形に近い「標準的な宅地」に比べて使い勝手が悪い土地は、評価額が減額されます。 代表的なのが次の補正です。

これらの補正率は、路線価図に定められた地区区分(普通住宅地区など)ごとに国税庁が数値表を公表しており、 地域や土地の条件によって割合が変わります。 また財産評価基本通達では、不整形地補正率と奥行長大補正率は重ねて適用せず、 どちらか有利な(評価額がより下がる)方を選ぶという取り扱いが示されています。

三角形など形が整っていない土地(不整形地)の評価では、奥行の距離をそのまま使うのではなく、 国税庁の質疑応答事例で次のような考え方が示されています。

隅切りがある土地、道路に斜めに接する土地、間口が複数に分かれている土地、 屈折した道路に接する土地など、間口や奥行の測り方自体で判断に迷うケースも実務では少なくありません。 こうした特殊な形状の土地ほど自己判断でのズレが起きやすいため、 地積測量図と路線価図を用意したうえで税理士に評価を依頼するのが安全です。

前面が私道になっている土地 — 評価は「0%」「30%」「100%」に分かれる

実家の前面道路や敷地内の通路が私道(個人所有の道路)になっているケースは珍しくありません。 国税庁タックスアンサー No.4622 では、私道の相続税評価を利用状況によって次のように整理しています。

私道の種類評価
不特定多数の人が通行する私道(通り抜け道路など)評価しない(0%)
特定の人だけが通行する私道(行き止まりの袋小路など)私道でないものとして評価した額の 30%
自分の敷地への通路・旗竿地の通路部分など、専ら自分の宅地として使う部分宅地の一部として通常どおり評価(100%)

※ 国税庁タックスアンサー No.4622「私道の評価」を基に作成。

注意したいのは、固定資産税の扱いと相続税の評価は別基準だということです。 私道が固定資産税で「公衆用道路」として非課税(0 円)になっていても、 それは地方税法上の固定資産税の判定であり、相続税の評価が自動的に不要になるわけではありません。 「うちの前の道路は非課税だから相続税もかからない」と思い込まず、 名寄せ帳などで私道の有無を確認し、評価区分の判定は税理士に相談することをおすすめします。

アパート・貸家がある土地(貸家建付地)の評価減

実家の敷地内やその一部でアパート・貸家を建てて人に貸している場合、 その土地は「貸家建付地」として評価が下がります。 国税庁タックスアンサー No.4614 に示されている計算式は次のとおりです。

貸家建付地の評価額 = 自用地としての評価額 −(自用地としての評価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

借地権割合や賃貸割合によって減額幅は変わるため、「だいたい 2 割引き」といった単純な目安ではなく、 自分の土地の借地権割合と、相続開始時点の入居状況(空室があると賃貸割合が下がる)を確認したうえで 計算する必要があります。空室期間の扱いなど細かい実務判断もあるため、 正確な評価額は税理士に計算を依頼するのが確実です。

「実勢価格の方が安い」場合の売却価格・鑑定評価という選択肢とそのリスク

ここまでの補正を反映してもなお、通達に基づく評価額が実際の売却可能価格より高いと感じられる 土地もあります。国税庁の実務では、路線価などに基づく財産評価基本通達の方法が原則(実務のほとんどを占める) ですが、例外的に不動産鑑定士による鑑定評価額や、実際の売却価格を評価額として申告する方法も 存在するとされています。

ただし、いずれも税務署から否認されるリスクが高い方法です。 実際の売却価格を評価額として使う場合、認められるための目安として「第三者への売却であること」「売り急ぎなどではない通常の取引であること」 「相続開始と売却の時期が近いこと」といった条件が挙げられています。 さらに、通達評価額と実勢価格が大きく乖離するような節税目的の取引について、 最高裁判所は令和 4 年 4 月 19 日の判決で、税務署が財産評価基本通達によらず 個別に評価し直す「総則 6 項」の適用を認めました。 この判決は借入をともなう不動産購入による節税を巡る事案ですが、 「通達評価額と時価が大きく離れているほど、通達どおりの評価が覆るリスクがある」 という点は、鑑定評価額や売却価格を使う申告全般にも関わる話です。 この方法を検討する場合は、メリットとリスクの両方を踏まえて税理士に相談してから判断してください。

気づいてから申告までの進め方

評価減に気づくタイミングは早いほど、遺産分割や納税資金の計画に反映しやすくなります。 一般的な流れは次のとおりです。

  1. 1
    土地の形状・利用状況を確認する

    登記簿・地積測量図・名寄せ帳で、形がいびつでないか、私道を含んでいないか、貸している部分がないかを確認

  2. 2
    該当しそうな評価減の当たりをつける

    本記事の一覧表を目安に、不整形地・私道・貸家建付地のどれに当てはまりそうか整理する

  3. 3
    税理士に資料を見せて評価額を計算してもらう

    補正率や賃貸割合など、地域・個別事情で数値が変わる部分は自己判断せず専門家に確認

  4. 4
    相続税の申告書に評価額を反映する〜10 か月

    相続開始を知った日の翌日から 10 か月以内が申告期限

小規模宅地等の特例が使える土地であれば、この評価額にさらに特例の減額を重ねる形になります。 特例の要件(同居・家なき子・老人ホーム入所など)は小規模宅地等の特例の記事で解説しています。

よくある質問

Q. 小規模宅地等の特例と、この記事の評価減は同時に使えますか?

別の制度なので、要件を満たせば両方使えます。小規模宅地等の特例は「誰が実家を相続するか」で判定される、評価額を最大 8 割減らす制度です。一方、不整形地補正・私道評価・貸家建付地評価などは「土地の形状や使われ方」に応じて評価額そのものを計算し直すもので、小規模宅地の特例を適用する前の評価額を決める段階の話です。実務では、まず土地の形状・利用状況に応じた評価額を出し、そのうえで要件を満たせば小規模宅地の特例で追加の減額をする、という順序になります。同居や家なき子の要件など特例の詳細は「小規模宅地等の特例」の記事を、実際の評価額の計算は税理士に確認してください。

Q. 固定資産税の明細書に「私道」の記載がないのですが、評価は関係ありませんか?

そう言い切れない場合があります。私道の中には固定資産税が非課税になる「公衆用道路」として扱われ、課税明細書に金額が載らないケースがあるためです。ただし固定資産税の非課税判定と、相続税での私道評価は別の基準で行われるため、固定資産税が非課税(0 円)だからといって相続税の評価も不要とは限りません。実際に私道を含む土地を所有しているかどうかは、市区町村役場で取得できる「名寄せ帳」で確認できる場合があります。私道の有無や評価区分の判定は、税理士に資料を見せて確認するのが確実です。

Q. 実際に売れた金額(実勢価格)で相続税の申告はできますか?

認められる場合もありますが、否認されるリスクが高い方法とされています。国税庁の実務では、路線価などに基づく財産評価基本通達の方法での評価が原則で、実際の売却価格や不動産鑑定評価額を使う申告は例外的な扱いです。しかも、通達評価額と実勢価格が大きく乖離するような節税目的の取引について、最高裁判所は令和 4 年 4 月 19 日の判決で、税務署が通達によらず個別に評価し直す「総則 6 項」の適用を認めています。売却価格や鑑定評価額での申告を検討する場合は、否認リスクとメリットを比較したうえで、必ず税理士に相談してから判断してください。

※ 本記事は国税庁タックスアンサー(No.4614・No.4622)、国税庁の質疑応答事例、 財産評価基本通達に基づく一般的な制度紹介であり、個別の税務判断はできません。 土地の評価減は形状・利用状況・地域ごとの補正率など個別要件の確認が複雑な分野です。 実際に適用できるかどうか、具体的な減額幅がいくらになるかは、 必ず相続税に詳しい税理士にご確認ください。