結論: 違いは「他社に頼めるか」「自分で買主を見つけられるか」の2軸

実家の売却を不動産会社に任せると決めたら、次に結ぶのが媒介契約です。 種類は3つあり、違いは煎じ詰めると2つの軸しかありません。①他の会社にも重ねて頼めるか、②自分で見つけた買主と直接契約できるかです。 この2軸の組み合わせで、レインズへの登録義務や報告の回数といった会社側の義務も変わってきます。

一般媒介専任媒介専属専任媒介
他社にも依頼できるできないできない
自分で買主を見つけて直接契約(自己発見取引)できるできるできない
有効期間法律上の制限なし(標準約款では3か月以内)3か月以内3か月以内
レインズへの登録義務なし7日以内(休業日を除く)5日以内(休業日を除く)
売主への業務報告義務なし2週間に1回以上1週間に1回以上

根拠: 宅地建物取引業法34条の2(第3項・第4項・第5項・第9項)および同法施行規則。 一般媒介の有効期間は法律では定められていませんが、国土交通省の標準媒介契約約款では専任媒介と同じく3か月以内とされています。

私はこの3種類の違いを、恥ずかしながら宅建の勉強を始めるまで制度としては説明できませんでした。実家の売却の流れの記事でも「媒介契約を結ぶ」と一行書いていただけです。 読者の方が実際に判子を押す場面なのに、です。ここでは条文に当たり直して整理します。

そもそも媒介契約は「書面で結ぶ」もの

意外と知られていませんが、媒介契約の書面交付は会社側の法律上の義務です。 宅建業法34条の2第1項は、媒介契約を結んだら不動産会社は遅滞なく、 所定の事項を記載した書面を作成し、記名押印して依頼者に交付しなければならないと定めています。 記載する事項は、物件の表示・売買価額・他社への重ねての依頼の可否・有効期間・ レインズへの登録・報酬に関する事項などです。

つまり「口約束で任せた」「書面をもらっていない」という状態は、売主が損をしているというより、会社側が義務を果たしていない状態です。 手元に媒介契約書がない場合は、遠慮せず求めて構いません。

もうひとつ、査定価格の根拠を明らかにする義務もあります(同条第2項)。 「なぜこの金額なのか」を聞くのは、売主として当然の質問です。

専任・専属専任には「3か月の上限」がある

専任媒介・専属専任媒介の有効期間は3か月を超えることができません。 34条の2第3項は「これより長い期間を定めたときは、その期間は、3月とする」として、 長い期間を書いても自動的に3か月に短縮されると定めています。

そして第4項が実務的にはより重要です。更新は「依頼者の申出により」行うものとされ、更新後も3か月を超えられません。自動更新の特約は認められていないということです。

この仕組みが売主にとって何を意味するかというと、3か月ごとに「この会社に任せ続けるか」を判断する機会が制度として保証されているということです。実家の売却は相談から現金化まで3か月〜1年かかることが多く、その間ずっと同じ会社に縛られるわけではありません。 更新の連絡が来たら、それまでの報告内容と販売活動を振り返る区切りだと考えていいと思います。

レインズ登録と報告義務 — 専任系を選ぶ「見返り」

専任系は他社に頼めないぶん、会社側に義務が課されます。ひとつが指定流通機構(レインズ)への登録です。レインズは不動産会社間で物件情報を 共有する仕組みで、ここに載って初めて他社の担当者が買主候補に紹介できるようになります。

登録期限は専任媒介で契約から7日以内、専属専任媒介で5日以内(いずれも会社の休業日を除く)。 登録したら、会社は登録を証する書面を遅滞なく売主に引き渡さなければなりません(34条の2第6項)。この書面が来ているかどうかは、売主が自分で確認できるポイントです。

もうひとつが業務報告です。専任媒介は2週間に1回以上、専属専任媒介は1週間に1回以上、 販売活動の処理状況を報告する義務があります(同条第9項)。 「問い合わせが何件あったか」「内覧は何組入ったか」が定期的に届くのは、 遠方の実家を売る場合には特にありがたい仕組みです。

逆に言えば、一般媒介にはこのどちらの義務もありません(法令上は)。 複数社に頼める代わりに、レインズ登録も定期報告も約束されていない、という交換条件です。

「囲い込み」は2025年1月から処分の対象になった

専任系を選ぶときに知っておきたいのが囲い込みです。 売主から専任で預かった物件について、他社から「買いたいお客様がいます」と問い合わせが来ても 「商談中です」などと断り、自社で買主も見つけて売主と買主の両方から手数料を取る(両手仲介)ことを狙う行為を指します。売主から見ると、本来届いたはずの買主候補が遠ざけられ、売却が遅れたり価格が下がったりするという不利益になります。

ここは近年ルールが変わったところです。2024年6月に宅地建物取引業法施行規則が改正され、2025年(令和7年)1月1日から、レインズに「取引の申込みの受付に関する状況」を 登録することが義務づけられました。そして国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」の改正により、この登録内容が事実と異なる場合には、宅建業法65条1項に基づく指示処分の対象になり得ることが明確にされています。

誤解のないように書いておくと、これは「囲い込みが横行している」という話ではありません。 仕組みとして防ぎにくかったものに、記録が残るルールができた、ということです。 売主側の備えとしては、次の3点が現実的です。

実家じまいで、どれを選ぶ人が多いのか

「これが正解」と言い切れる契約形態はありません。物件の売りやすさと、 売主がどれだけ手をかけられるかで変わります。ただ、実家じまいという文脈に限れば、 考え方の整理はできます。

実家の状況相性のよい契約理由
都市部・駅近など、問い合わせが見込める一般媒介も選択肢複数社に競わせやすい。ただし各社の力の入れ方は分散しがち
地方・築古など、時間がかかりそう専任系が向くことが多い1社が腰を据えて広告費をかけられる。定期報告も来る
遠方に住んでいて頻繁に動けない専任系報告義務があるぶん、放置されているかどうかが分かる
親族や近所に買いたい人がいるかもしれない専属専任は避ける専属専任だと自己発見取引ができず、その相手とも会社を通す必要がある

最後の行は見落とされがちです。実家じまいでは「隣の家が土地を欲しがっている」「親戚が住みたいと言っている」という展開が実際に起こります。その可能性が少しでもあるなら、専属専任は選ばないほうが動きやすい。 専任媒介であれば自己発見取引はできます(その場合の費用の扱いは契約書で確認してください)。

なお、そもそも仲介ではなく買取を選ぶという道もあります。判断の分かれ目は買取と仲介の比較に、売り出したあと動きがない場合の見直し方は売り出し後に売れないときにまとめています。

契約書に判子を押す前に見る5か所

売却全体でかかるお金の見通しは実家じまいの費用総額に、売る時期の判断は相続前に売るか相続後に売るかにまとめています。

よくある質問

契約したあと、期間の途中でやめられますか?

専任・専属専任の有効期間は最長3か月ですが、期間中の解除がまったくできないわけではありません。国土交通省の標準媒介契約約款では、相手方が義務に違反したときの解除や、依頼者の都合による解除の扱いが定められており、後者では会社がすでに支出した広告費などの実費を請求される場合があります。実際の条件は結んだ契約書に書かれているので、解除を考えるときはまず手元の媒介契約書の解除条項を確認してください。判断に迷う場合は、契約書を持って専門家に相談するのが確実です。

期間が切れたら自動で更新されますか?

いいえ。宅建業法34条の2第4項は「依頼者の申出により、更新することができる」と定めており、依頼者から言い出さなければ更新されない仕組みです。自動更新の特約は認められていません。つまり3か月ごとに「この会社に任せ続けるか」を売主が判断できるようになっています。裏を返せば、更新の連絡が来たときが、これまでの販売活動や報告の内容を振り返って会社を変えるかどうかを考える機会になります。

一般媒介で何社にも頼めば、それだけ早く売れますか?

社数を増やせば早く売れる、と単純には言えません。一般媒介ではどの会社も「自社で決まるとは限らない」状態で広告費をかけることになるため、力の入れ方が分散することがあります。一方で専任系は1社に集中するぶん、その会社の販売力に結果が左右されます。どちらが向くかは物件の売りやすさによって変わり、問い合わせが見込みやすい物件では一般媒介、時間がかかりそうな物件では専任系で腰を据えて売る、という整理をされることが多いようです。売れ行きが伸びない場合の見直し方は、売り出し後に売れないときの記事も参考にしてください。

この記事は宅地建物取引業法および同法施行規則、国土交通省の標準媒介契約約款・ 「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を確認して書いています。 個別の契約内容についての判断は、実際に結ぶ媒介契約書と、必要に応じて専門家にご確認ください。