結論 — 最初の1週間で最も大事なのは、「全部やらないと決めること」
親が亡くなった直後は、やることが一気に増えたように見えます。 葬儀の段取り、役所の手続き、親族への連絡、そして「実家をどうするか」。 けれど法律で「1週間以内」と期限が切られているものは、実はごくわずかです。
そこでこの記事では、最初の1週間を「整理」の期間ではなく「保全」の期間として考えることを提案します。 保全とは、散らばっている大事なものを1か所に集めて守るだけで、 分類も処分も判断もしない段階のことです。
集めるだけなら、気持ちが落ち着いていなくてもできます。 そして集めておけば、2週目以降に手続きを進めるときの土台になります。 逆に言えば、この1週間にやらないと決めていいことのほうが、圧倒的に多いのです。
※ この記事は、期限のある手続きを網羅した親が亡くなった直後の手続き(期限順チェックリスト)の「その手前」を扱うものです。何から手をつけるか決められないときの、優先順位の絞り込みに使ってください。
「本当に期限があるもの」と「急がなくてよいもの」の対比
手続きの案内を見ると、どれも同じ重さで並んでいるので焦ります。 けれど期限を並べ直すと、1週目に必要なものは絞れます。根拠となる法令・公的情報とあわせて整理しました。
| やること | 期限と根拠 | 最初の1週間での扱い |
|---|---|---|
| 死亡届の提出 | 死亡の事実を知った日から7日以内(国外なら3か月以内)。戸籍法86条 | やる(葬儀社が代行することが多い) |
| 火葬(埋葬)許可の申請 | 市町村長の許可が必要(墓地埋葬法5条)。火葬は死後24時間経過後(同法3条) | やる(死亡届と同時に申請するのが一般的) |
| 年金の受給停止(受給権者死亡届) | 10日以内(国民年金は14日以内)。マイナンバー収録済みなら原則省略可 | 2週目でよい。省略できる場合もある |
| 世帯主変更届 | 変更があった日から14日以内。住民基本台帳法25条 | 2週目でよい |
| 健康保険(国保・後期高齢者医療)の資格喪失 | 14日以内。国民健康保険法施行規則13条(公簿等で確認できるときは省略させられる) | 2週目でよい |
| 介護保険の資格喪失・被保険者証の返却 | 14日以内が目安(自治体の案内) | 2週目でよい。健康保険と同じ窓口でまとめられることが多い |
| 相続放棄・限定承認の申述 | 知った時から3か月以内。民法915条 | まだ動かなくてよい。ただし遺品を処分しないこと(後述) |
| 準確定申告(必要な場合) | 相続開始を知った日の翌日から4か月以内。国税庁 | まだ |
| 相続税の申告(必要な場合) | 死亡を知った日の翌日から10か月以内。国税庁 | まだ |
| 相続登記(実家の名義変更) | 取得を知った日から3年以内。怠ると10万円以下の過料。法務省 | まだ |
| 預貯金の解約・名義変更 | 法律上の期限なし(相続人の確定が前提) | 回らない。どこにあるか書き出すだけ |
| 遺品整理・形見分け・家の片付け | 法律上の期限なし | やらない |
| 実家を売るか残すかの決定 | 期限なし | 決めない |
※ 死亡届の提出先は「死亡地」「亡くなった方の本籍地」「届出人の所在地(住所地)」のいずれかの 市区町村です。届出義務者は同居の親族・その他の同居者・家主や家屋の管理人という順序で 定められていますが、順序にかかわらず届け出ることができ、同居していない親族や後見人等も 届け出られます(戸籍法87条)。手続きの要否・省略の可否は自治体や年金機構の運用で差があるため、 ご自身のケースは各窓口でご確認ください。
この表で伝えたいのは、「3か月」「10か月」「3年」と書かれているものは、 1週目に手をつけなくても間に合うということです。 期限の数字は、急かすためではなく「まだ動かなくていい」ことの根拠として使えます。
「整理」の前に「保全」という段階を置く
では1週目に何をするのか。ここで置きたいのが保全という段階です。 やることは1つだけ、大事なものを見つけたら、決めた1か所に入れる。それだけです。
段ボール1箱でも、空いた引き出し1つでも構いません。 「これは大事そう」と思ったものを、中身を確認せずに放り込んでいきます。
- 通帳・キャッシュカード金融機関名が分かればよい段階。残高の確認や解約はまだしない
- 印鑑(実印・銀行印と思われるもの)どれが実印かはあとで分かる。印鑑ケースごとまとめて入れる
- 保険証券・保険会社からの郵便物生命保険・医療保険・火災保険。証券が見つからなくても案内ハガキが手がかりになる
- 年金関係の書類年金証書・基礎年金番号通知書・年金手帳・振込通知書。基礎年金番号が分かる書類が重要
- 健康保険証・介護保険被保険者証・マイナンバーカード返却や資格喪失の手続きで必要になる。バラバラに置かれていることが多い
- 運転免許証などの身分証返納手続きは急がなくてよいが、紛失すると探すのが大変
- 家・車・金庫の鍵実家の合鍵が誰の手元にあるかも、この段階でメモしておく
- スマートフォン・携帯電話と充電器契約先や定期支払いの手がかりになる。電源を切らず充電を続けておくと後が楽
- 医療情報(お薬手帳・診断書・病院の領収書)医療費の精算や高額療養費、準確定申告で使う可能性がある
- 不動産の権利証・固定資産税の納税通知書実家の話をするときの基礎資料。見つからなければ探さなくてよい
そしてこの段階でやらないことが3つあります。
- 分類しない — 「必要」「不要」に分けるのは、判断力が要る作業です。集めるだけなら判断は要りません
- 処分しない — 捨てる判断は、あとから取り返せません
- 持ち出さない — 集めた箱は実家に置いたままにします(理由は次章)
保全と整理の違いは、「見つけたら守る」か「見つけたら決める」かです。 1週目は前者だけでいい、というのがこの記事の提案です。
この1週間、やらないことのリスト
ここからは逆向きの整理です。この時期にやりがちで、けれど急ぐ必要がない (あるいは急ぐと痛い目を見やすい)ことを並べます。
1. 家中の片付けを始める
気持ちを動かすために手を動かしたくなる時期です。ただ、片付けは「捨てる」という判断の連続なので、判断力が落ちている時期に向いていません。 遺品整理をいつ始めるかに法律上の決まりはなく、四十九日を過ぎてから始める家庭が多数派です。 時期の考え方は遺品整理はいつから始める?にまとめています。
2. 家族が個別に遺品を持ち帰る
親族が集まったタイミングで「これは私がもらっていい?」という話が出るのは自然なことです。 ただ保全の段階では、いったん誰も持ち出さないのが実務上は無難です。 誰が何を持って行ったか分からなくなると、あとの遺産分割の話し合いで 「あれはどこへ行ったのか」という不信につながりやすいからです。
さらに、亡くなった人に借金がある可能性が残っている段階では、 相続財産を処分したとみなされて相続放棄ができなくなるおそれがある、と説明されています (民法921条の法定単純承認)。何がどこまで「処分」に当たるかは個別の事実関係による判断で、 当サイトでは可否を断定できません。
借金の可能性が少しでもあるなら、持ち出しや片付けの前に弁護士・司法書士へ相談してください。 考え方の詳細は遺品整理はいつから始める?と、 入院費の支払いを例に境界線を整理した親の入院費を亡くなった人の財産から払うと相続放棄できない?をあわせてご覧ください。
3. 銀行を全部回る
預金の手続きは、相続人が確定して戸籍が揃ってからでないと進まないものが多く、 先に窓口を回っても書類を渡されて帰るだけになりがちです。1週目は「どこに何がありそうか」を書き出すだけに留めるという整理をする実務者もいます。
通帳・キャッシュカード・郵便物・確定申告の控えなどから金融機関名を拾い、 紙に列挙しておく。それだけで2週目以降の動きが速くなります。 全店照会や生命保険契約照会といった調べ方は親が亡くなった後の財産・借金の調べ方にまとめています。
4. 相続手続きを全部いっぺんに進めようとする
遺産分割、相続登記、相続税。どれも重要ですが、前の表のとおり期限には余裕があります。相続人が誰かを確定する戸籍集めから始めるのが順序としては自然で、 それは1週目にやらなくても間に合います。
なお、年金については「止める手続き」だけでなく「受け取る手続き」もあります。 年金は後払いなので、亡くなった月分までの未支給年金がほぼ必ず発生します。 こちらは時効が5年あるため慌てる必要はありません (未支給年金は相続放棄しても受け取れる)。
5. 感情が不安定なまま、大きな決断をする
「実家は売る」「解体する」「自分が引き継ぐ」。この時期に口に出した言葉が、 あとから重い約束のように残ってしまうことがあります。 実家をどうするかは、相続人全員で市場価値と維持費を確認してから決める話です。1週目に決めるべきことではありませんと、あらかじめ決めておくほうが安全です。
※ この章の「やらないこと」の並びは、葬儀・相続の実務を発信する動画で示されていた整理を 出発点に、期限の根拠を公的情報で確認し直したものです。特定の家庭の体験談ではありません。
例外 — 冷蔵庫の生ものだけは、先に処理する
「1週目は片付けない」と書きましたが、1つだけ例外があります。冷蔵庫と生ゴミです。
誰も住まなくなった家の冷蔵庫は、そのままにしておくと数日で傷み始めます。 夏場はとくに、においや虫の問題が出てから対処するほうがはるかに大変です。 葬儀で家を空ける日数を考えると、生鮮食品と生ゴミだけは先に出しておくのが実務的です。
ここで「冷蔵庫の中身を整理する」と考えると手が止まるので、傷むものだけをゴミ袋に入れて、収集日に出すと決めてしまうのがコツです。 調味料や缶詰、冷凍食品はそのままでいい。判断が要らない範囲に絞ります。
同じ理屈で、家を空ける前に済ませておくと後が楽なのは次の程度です。
- 生鮮食品・生ゴミを出す — 判断が要らない。冷蔵庫の電源はまだ切らなくてよい
- ガスの元栓を閉める — 火の元だけ確認する
- 郵便物が溜まらないようにする — 郵便受けが溢れると空き家だと分かってしまう。転送や定期的な回収の相談を
- 冬場は水道の凍結対策 — 寒冷地では水抜きをしないと破裂のおそれがある
- 戸締まりと、鍵を誰が持つかの共有 — 「あとで誰かが入れる状態」にしておく
電気・水道を止めるかどうかは、防犯や今後の管理方針とも関わるので1週目に決めなくて構いません。 実家じまい全体の順番を確認したいときは実家じまいチェックリスト(時系列順)が使えます。
1週間の段取り
目安としての流れです。日付どおりに進まなくても問題ありません。 葬儀の日程や親族の都合で前後するのが普通です。
- 1死亡診断書(死体検案書)を受け取る当日
このあとの手続きすべての出発点。役所に出す前にコピーを数枚取っておくと、保険金請求や金融機関の手続きで助かる
- 2死亡届と火葬(埋葬)許可の申請7日以内
葬儀社が代行することが多い。火葬許可証は火葬場で必要になるため、受け取ったら保全の箱へ
- 3保全の場所を1か所決める1〜2日目
段ボール1箱でも引き出し1つでもよい。「大事そうなものはここに入れる」と家族に共有するだけ
- 4葬儀を終える2〜5日目
この間に手続きを進めようとしなくてよい。会葬者への対応で1日が終わるのが普通
- 5冷蔵庫の生ものと生ゴミを出す家を空ける前
判断が要らない範囲だけ。調味料・冷凍食品は残してよい
- 6見つかった貴重品・書類を保全の箱に集める3〜7日目
探し回らなくてよい。目についたものを入れるだけ。分類も処分もしない
- 7金融機関名・保険会社名を紙に書き出す5〜7日目
窓口には行かない。「どこに何がありそうか」のリストを作るだけ
- 82週目にやることを決めて、そこで一度止まる7日目
世帯主変更・健康保険・介護保険・年金は同じ市区町村の窓口でまとめられることが多い。役所に電話して持ち物を聞くところから
8日目以降の具体的な手続きは親が亡くなった直後の手続き(期限順チェックリスト)に期限順で並べています。1週目を終えたら、そちらに移ってください。
保全した箱は、そのまま2週目の武器になる
この1週間で作った箱とリストは、あとの手続きでほぼそのまま使えます。
| 保全したもの | 2週目以降に使う場面 |
|---|---|
| 年金証書・基礎年金番号が分かる書類 | 年金の受給停止、未支給年金の請求 |
| 健康保険証・介護保険被保険者証 | 資格喪失の届出・返却、葬祭費の申請 |
| 保険証券・保険会社からの郵便物 | 生命保険の請求(死亡診断書のコピーとセットで使う) |
| 通帳・金融機関のリスト | 財産調査、口座の凍結解除・解約、引き落としの確認 |
| お薬手帳・病院の領収書 | 医療費の精算、高額療養費、準確定申告 |
| 固定資産税の納税通知書・権利証 | 実家の名義変更(相続登記)、価値の把握 |
つまり保全は、「何もしていない期間」ではありません。判断を必要としない作業だけを先にやっておくという、 手続きの前倒しです。
それでも手が動かないときは
保全の箱すら作れない日もあります。それでも大丈夫です。 法律上「7日以内」と決まっているのは死亡届と火葬許可の申請で、 これは葬儀社が代行してくれることが多い部分です。
14日前後の期限がある届出も、多くは同じ市区町村の窓口でまとめて済ませられます。 万一過ぎてしまっても、窓口で事情を説明すれば受け付けてもらえるのが実務上は一般的です (年金だけは、受け取りすぎた分の返還が生じる可能性があるため早めの連絡が安心です)。
今日できたのが「大事そうなものを1か所に置いた」だけなら、それで十分です。手続き全体をどこに相談すればよいか分からないときは、相続手続きの相談窓口に 全体の段取りから聞いてしまうのも一つの方法です。 自分でやる範囲と任せる範囲を分けられれば、それだけで負担はかなり軽くなります。
よくある質問
Q. 最初の1週間で、本当にやらなければいけないことは何ですか?
法律で期限が切られているのは、死亡届と火葬(埋葬)許可の申請です。死亡届は「死亡の事実を知った日から7日以内」に、診断書または検案書を添えて提出します(戸籍法86条)。火葬を行うには市町村長の許可が必要で(墓地埋葬法5条)、実務上は死亡届と同時に火埋葬許可申請書を出し、その場で火葬許可証を受け取る流れになります。この2つは葬儀社が代行してくれることが多く、実際に遺族が動くのは書類への署名だけ、というケースも珍しくありません。世帯主変更届や健康保険・介護保険・年金の届出は14日前後の期限があるので、1週目ではなく2週目に回して構いません。
Q. 家族が「形見に」と親の物を持ち帰りたいと言っています。止めるべきですか?
「1週間だけ待ってほしい」と伝えるのが無難です。理由は2つあります。1つは、あとで誰が何を持って行ったか分からなくなり、遺産分割の話し合いでこじれる原因になりやすいこと。もう1つは、亡くなった人に借金がある可能性が残っている段階では、相続財産を処分したとみなされて相続放棄ができなくなるおそれがあると説明されているためです(民法921条の法定単純承認)。どこまでが問題になるかは個別の判断になるため、当サイトでは可否を断定できません。借金の可能性が少しでもあるなら、片付けや持ち出しを始める前に弁護士・司法書士へ相談してください。詳しくは「遺品整理はいつから始める?」の記事で解説しています。
Q. 通帳が見つかりません。銀行を全部回ったほうがいいですか?
最初の1週間の段階では、回らなくて大丈夫です。この時期にやるのは「どこに口座がありそうか」を書き出すところまでで十分です。通帳・キャッシュカード・郵便物・確定申告の控えなどから金融機関名を拾い、リストにしておきます。口座の残高照会や解約は、相続人が確定して戸籍が揃ってからでないと進まない手続きが多く、先に回っても二度手間になりがちです。なお、金融機関が死亡を知ると口座は凍結され、公共料金の引き落としも止まります。当面のお金が必要な場合の仮払い制度や、口座の探し方は別記事にまとめています。
※ 本記事は戸籍法・墓地埋葬法・住民基本台帳法・国民健康保険法施行規則・民法の条文、 および日本年金機構・国税庁・法務省・市区町村の公表情報に基づく一般的な解説です。 手続きの要否・期限・省略の可否は、亡くなった方が加入していた制度や自治体の運用によって 変わります。相続放棄や単純承認に当たるかどうかの判断は弁護士の業務であり、 相続税・準確定申告の判断は税理士の業務です。個別のご事情については、 各窓口および専門家にご相談ください。