結論 — 「誰の担保か」で、行く先が3つに分かれる
相続登記をしようとして登記簿を取ったら、 知らない抵当権が残っていた。古い家では珍しくありません。
返済が終わっても抵当権の登記は自動では消えません。金融機関から抹消の書類をもらい、登記を申請して初めて消えます。 親がその手続きをしないまま何十年も経っている、というのがよくある形です。
進め方は、相手が誰でどうなっているかで分かれます。まず相手を特定するところからです。
| 相手の状況 | 進め方 |
|---|---|
| 金融機関が今もある | 連絡して抹消書類をもらい、共同で申請する |
| 合併・名称変更している | 承継先に連絡する。登記簿の名称と現在の名称が違うだけのことが多い |
| 相手が個人・所在不明 | 不動産登記法70条の手続き。司法書士の領域 |
まず確かめる3つ
- 登記簿の、担保について書かれた欄に何があるか抵当権者の名称・住所、債権額、設定の日付を見ます。日付が古いほど相手が現存しない可能性が上がります
- 実家に抹消書類が残っていないか解除証書・弁済証書、登記済証、委任状など。引き出しに入ったままのことがあります
- 抵当権者の名称で今の会社を調べる「◯◯信用組合」が合併で別名になっているだけ、というケースが多くあります
書類の探し方は実家の書類整理にまとめています。抹消書類が出てくれば、いちばん簡単なルートに乗れます。
相手の所在が分からないとき
相手が個人の貸主で、すでに亡くなっていて相続人もたどれない。 こういうときのために、不動産登記法70条が手続きを用意しています。
- 1相手の所在を調査する
住所の調査。ここで見つかれば通常の共同申請に戻れます
- 2公示催告を申し立てる
相手の所在が知れない場合、抹消を求める側は裁判所に公示催告の申立てができます(70条1項)
- 3除権決定を得る
除権決定があれば、単独で抹消を申請できます(70条3項)
これとは別に、供託による方法があります。所在が知れない場合において、被担保債権の弁済期から20年を経過し、その期間を経過した後に、 債権・利息・損害金の全額に相当する金銭を供託したときは、 単独で抹消を申請できると定められています(70条4項)。
古い担保が残ったままの土地では、この20年のルートが現実的な出口になることがあります。 ただし供託する金額の計算も、要件を満たすかの判断も専門的です。 ここまで来たら司法書士に相談してください。
相手が解散した法人の場合は別の規定があります。 調査しても後始末を担当する人の所在が判明しないとき、被担保債権の弁済期から30年を経過し、 かつ解散の日から30年を経過していれば、単独で抹消を申請できます(70条の2)。 20年ではなく30年である点、法人の解散からも30年が要る点に注意してください。
相続登記は通る。詰まるのは売るとき
誤解されやすいところですが、抵当権が残っていても相続登記自体はできます。所有権の名義を移す手続きと、担保権を消す手続きは別だからです。
問題は売る段になってからです。買主は担保が付いたままの不動産を引き受けません。決済までに抹消しておくことが前提になります。
つまり「相続登記は通るが、売却で必ず引っかかる」という順番です。 売る予定があるなら、相続登記を自分でやるを検討する段階で、抵当権のことも一緒に司法書士へ伝えておくほうが後戻りしません。
売却の流れ全体は実家売却の流れ、 登記まわりの費用感は名義変更にかかる費用にまとめています。
放置したときに起きること
古い抵当権は、あるだけでは日常の生活に影響しません。 だから何十年も残ったままになります。
ただし時間が経つほど、相手をたどるのが難しくなります。法人なら合併の履歴が増え、個人なら相続人の数が増えていきます。 相続登記が義務になったことで登記簿を見る機会は増えましたから、気づいた今が、いちばん相手をたどりやすい時点だと考えてください。
相続登記の義務そのものについては相続登記の義務化にまとめています。
よくある質問
抵当権が残っていると、相続登記はできませんか?
相続登記そのものは、抵当権が残っていてもできます。所有権の名義を移す手続きと、担保権を消す手続きは別だからです。ただし実家を売る段になると話が変わります。買主は担保が付いたままの不動産を引き受けたがらないため、決済までに抹消しておくことが求められるのが通常です。つまり「相続登記は通るが、売却で必ず引っかかる」という順番になります。売る予定があるなら、相続登記の依頼をする段階で司法書士に抵当権のことも一緒に伝えておくと、後戻りが少なくて済みます。
完済しているはずなのに、なぜ登記が残っているのですか?
返済が終わっても、抵当権の登記は自動では消えないためです。金融機関から抹消に必要な書類が渡され、それを使って登記の申請をして初めて消えます。親がその書類を受け取ったまま手続きをせず、書類だけが引き出しに残っている、というのはよくある形です。まずは実家の書類を探してください。抹消書類が見つかれば、そこから進められます。ただし発行から年数が経っていると、金融機関に再発行や現在事項の確認を依頼する必要が出てくることがあります。
貸主が個人で、もう亡くなっているようです。どうなりますか?
相手が個人の場合、その相続人を探して協力してもらうのが原則です。相続人が判明して応じてもらえるなら、共同で抹消の申請ができます。相手の所在が分からない場合には、不動産登記法70条が定める手続きを使う道があります。公示催告と除権決定を経る方法や、被担保債権の弁済期から20年を経過したうえで元本・利息・損害金の全額に相当する金銭を供託する方法です。いずれも裁判所や供託所が関わる手続きで、要件の判断も細かいため、この段階に入ったら司法書士に相談してください。
一般的な制度の解説です。どのルートに当たるか、供託の金額がいくらになるかといった個別の判断は司法書士・弁護士の業務です。登記簿の内容を持って専門家にご相談ください。
この記事の出典(3件)
- 不動産登記法 70 条(相手方の所在が知れない場合の登記の抹消)
- 不動産登記法 70 条の 2(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
- 非訟事件手続法 99 条・106 条(公示催告・除権決定)