通帳がない財産は、家族が「存在に気づけない」

ネット銀行・ネット証券・暗号資産(仮想通貨)には、通帳も証書もありません。 郵便物も最小限で、取引の連絡はメールやアプリの通知だけ。つまり紙の手がかりがほとんど残らないため、家族は口座の存在にすら 気づけないことがあります。スマホにロックがかかっていれば、なおさらです。

見つけられなかった財産は誰のものにもならないまま眠り、逆に FX や暗号資産の ようにマイナスになり得る資産を見落とすと、相続放棄の判断(期限 3 か月)を 誤ることにもなりかねません。この記事では、デジタル遺産の探し方と、 パスワードが分からなくても進められる相続手続きを整理します。 財産調査の全体像(預貯金・不動産・保険・借金)は財産・借金の調べ方を 先に読むと位置づけが分かりやすいです。

全体の流れ — 探す → 照会する → 正式手続き

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    スマホ・パソコン・明細から手がかりを集めるSTEP 1

    アプリ・メール・ブックマーク・カード類・入出金履歴。ロック解除できなくても紙とカードから拾える

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    候補の金融機関へ相続人として照会するSTEP 2

    戸籍等で相続人であることを示せば、口座の有無や残高を確認できる

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    見つからない証券口座は「ほふり」に開示請求STEP 3

    どの証券会社等に口座があるかを一括で確認できる

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    各社の相続手続きで解約・払い戻し・移管STEP 4

    パスワード不要。戸籍謄本・印鑑証明書などの書類で進む

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    マイナスの資産があれば相続放棄を検討STEP 5

    期限は相続の開始を知ってから 3 か月(民法 915 条)。調査はそれまでに

デジタル遺産の探し方チェックリスト

スマホのロックが解けなくても、できることはたくさんあります。 次の 5 つの入口を順番にあたってください。

デジタル遺産の確認も含め、実家じまい・相続でやるべきことは無料のチェックリストで進捗管理できます。

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証券口座が分からないときは「ほふり」に開示請求

手がかりが尽きても、株式や投資信託には最後の手段があります。 上場株式等の口座情報を一元管理している証券保管振替機構(ほふり)への 「登録済加入者情報の開示請求」です。亡くなった方のどの証券会社・信託銀行等に口座があるかを、相続人(またはその代理人・遺言執行者)が 有料で確認できます。

※ 手数料・手続き方法は証券保管振替機構の公表内容(2026 年 7 月時点)によります。 変更されることがあるため、請求前に公式サイトで最新の案内をご確認ください。

パスワードが分からなくても、相続手続きはできる

いちばん大事な結論はこれです。ネット銀行もネット証券も、故人の ID・パスワードは相続手続きに不要です。 店舗のある銀行と同じように、戸籍謄本などで相続人であることを証明する 「正式な相続手続き」で解約・払い戻し・移管ができます。おおまかな流れは各社共通です。

資産の種類最初の連絡先手続き後の受け取り方
ネット銀行
(楽天銀行・住信SBIネット銀行など)
各行の相続窓口へ電話(公式サイトの「相続のお手続き」参照)。連絡した時点で口座は利用停止(凍結)になる解約のうえ、代表相続人の口座へ払い戻しが一般的
ネット証券
(SBI証券・楽天証券など)
相続専用デスクへ電話株式・投資信託は相続人名義の証券口座へ移管するのが原則。相続人が同じ証券会社に口座を開くよう案内されることが多い
暗号資産取引所
(Coincheck など)
問い合わせフォーム等から相続発生を連絡Coincheck の場合、暗号資産は原則として代表相続人の同社口座へ移管(要口座開設)。日本円のみなら銀行口座への返還も可

必要書類は、亡くなったことが分かる戸籍謄本等、相続人であることが分かる戸籍、 印鑑証明書、遺産分割協議書または遺言書など。楽天銀行のように「法定相続情報一覧図の写し」で戸籍謄本の束を代替できるところも 多いので、複数の口座を並行して手続きするなら先に法務局で取得しておくと効率的です。 なお、連絡した時点で口座が凍結され引き落としも止まるため、凍結の影響と遺産分割前の 仮払い制度は口座凍結と仮払い制度で 確認しておいてください。

やってはいけない: パスワードの誤入力連打

「それらしいパスワードを片っ端から試す」のは危険です。ネットバンキングや 証券口座は誤入力が続くとロックがかかり、かえって確認が遠回りになります。 スマホ本体も同様で、iPhone は設定によっては 10 回連続でパスコードを 間違えるとデータが消去される機能があります。写真や連絡先ごと失うことに なりかねないので、思い当たる番号を数回試して駄目なら、それ以上は触らないのが賢明です。

勝手なログインには法的な注意点も

パスワードが分かってしまった場合でも、無断でログインして操作するのは避けてください。 他人の ID・パスワードを本人の許可なく入力してログインする行為は不正アクセス禁止法で禁止されています(罰則あり)。亡くなった方の アカウントにどこまで適用されるかは解釈が分かれるところですが、少なくとも 多くのサービスは規約で本人以外の利用を禁じており、他の相続人から「勝手に操作した」と 疑われる火種にもなります。また、ログインして預金を動かす・資産を売却するなどすると、相続を承認したとみなされて相続放棄ができなくなるおそれもあります (詳しくは相続放棄の記事へ)。 正式な相続手続きなら、これらの心配なく進められます。

放置するとどうなる — 4 つのリスク

特に 4 つ目は要注意です。相続放棄の期限は「相続の開始を知ってから 3 か月」 (民法 915 条)。デジタル遺産の調査はこの期限から逆算して、死亡直後の手続きが一段落したら できるだけ早く着手してください。協議書の作り方・後日判明した財産への備えは遺産分割協議書の書き方で 解説しています。

暗号資産の相続 — 「ないはず」で済ませない

暗号資産も相続財産であり、相続税の課税対象です。国税庁の FAQ では、 ビットコインのように活発な市場がある暗号資産は、相続開始時点の時価(取引所が発行する残高証明書などで確認)で評価するとされています。 「価格が乱高下するから申告しなくていい」ということにはなりません。

手続きは取引所ごとの相続手続きで進めます。パスワードや秘密鍵が分からなくても、 国内の取引所に口座があれば戸籍等の書類で残高確認・移管や返還ができます。 一方、本人だけが秘密鍵を管理する個人ウォレット(ハードウェアウォレット等)は、 鍵が分からないと事実上取り出せないのがデジタル遺産の中でも特に厄介な点です。 取引履歴やウォレットの存在を示すメモ・機器がないか、遺品の中で意識して探してください。

生前対策 — パスワードは書かず「存在一覧」だけ残す

ここまで読むと分かるとおり、相続手続きに必要なのはパスワードではなく「どこに口座があるか」という情報です。だから親に頼む生前対策も シンプルで、パスワードは書かなくていいので、口座・サービスの存在一覧だけ 紙に残してもらうのが最善です。銀行名・証券会社名・取引所名が 1 枚あれば、 あとは正式手続きで全部進みます。パスワードを書いた紙は盗難・悪用のリスクが あるうえ、書き残す心理的ハードルも高いので、まず存在一覧から。

あわせて、スマホの中身については公式の備えがあります。 Apple の「故人アカウント管理連絡先」は、あらかじめ指定した人が 死後にアカウントのデータへアクセスできるしくみ(iOS 15.2 以降で設定)。 Google の「アカウント無効化管理ツール」は、一定期間アカウントが 使われなくなったときに、指定した相手(最大 10 人)へデータを共有・通知できます。 いずれも本人が元気なうちに設定しておくことが前提です。 書類全般の生前整理とあわせて、実家の重要書類 7 分野を 親子で確認するタイミングで話してみてください。

よくある質問

Q. ほふりに開示請求すれば、株の残高や銘柄まで分かりますか?

分かるのは「どの証券会社・信託銀行等に口座があるか(口座の開設先)」までです。残高や銘柄は、通知された各証券会社に相続人として照会し、残高証明書を発行してもらって確認します。つまり、ほふりで口座の在りかを突き止め、各社への照会で中身を確認する、という 2 段階になります。

Q. 親のパスワードを知っています。ログインして解約や送金をしてもいいですか?

おすすめできません。他人の ID・パスワードを本人の許可なく入力してログインする行為は不正アクセス禁止法で禁止されており、亡くなった方の場合にどこまで適用されるかは解釈が分かれるものの、リスクがある行為です。加えて多くのサービスは規約で本人以外の利用を禁じています。さらに、勝手に預金を動かすと相続を承認したとみなされて相続放棄ができなくなるおそれや、他の相続人とのトラブルの原因にもなります。パスワードを知っていても使わず、各社の正式な相続手続きで進めるのが安全です。

Q. ネット口座に気づかないまま遺産分割協議を終えてしまったら?

後から見つかった財産について、あらためて相続人全員での話し合い(追加の協議)が必要になるのが原則です。相続税の申告後であれば修正申告が必要になり、加算税・延滞税が生じることもあります。こうした事態に備えて、遺産分割協議書に「後日判明した財産の扱い」を定める条項を入れておく方法もあります。書き方は遺産分割協議書の記事を参考に、不安があれば専門家に確認してください。

※ 各社の相続手続き・手数料は 2026 年 7 月時点の公表内容に基づく一般的な説明で、 変更されることがあります。相続放棄・相続税・法律の適用に関わる個別の判断は、 司法書士・弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。