引き取り料を提示されても、それが唯一の選択肢とは限らない
売れないと思っていた実家の相談に行って、「◯◯万円を払っていただければ引き取ります」と言われる。 売却益どころか持ち出しになると知らされた瞬間、多くの人は「もうこれしかないのかもしれない」と思ってしまいます。 けれどその提示は、その 1 社が今の条件で出した 1 つの評価であって、 市場の最終的な答えではありません。
実際に、地元の不動産会社を 10 社近く回ってすべて断られ、最後に持ち出しを提示された という報告がある一方で、20 年間空き家だった老朽物件が半年ほどの売却活動で成約した という報告もあります。違いは物件の良し悪しだけでなく、諦める前にどこまで確認したかにもあります。
※ この記事で紹介する事例は、実家じまいの実務者が自身のチャンネルで紹介している 相談者の体験談です。当サイト運営者自身の体験ではありません。金額はいずれも 「そう提示された事例がある」という報告であり、相場を示すものではありません。
「マイナス査定」として提示されたと報告されている例
売主側に持ち出しが発生する提案は、いくつかの形で報告されています。 金額の大きさよりも、どういう名目でいくら請求されるのかが書面になっているかを 見てください。
| 提示のされ方 | 売主の持ち出し(報告されている額) | そのときの状況 |
|---|---|---|
| 地元の不動産会社からの「引き取り料」 | 30 万円 | 北関東の実家。「30 万円で売れる」ではなく「30 万円を払う」という提案 |
| 10 社に断られた末の「引き取り」提案 | 50 万円 | 築 45 年・駅から 7km・バスは 3 時間に 1 本という立地 |
| ネット広告の買取業者の「リフォーム費用」 | 買取額 0 円 + 最低 100 万円(内見次第で上乗せ) | 不審に思って契約を断り、その後は仲介で売却できたという報告 |
| 「更地にしないと売れない」前提の解体費 | 500 万円 | 地方の広い実家。古家付きのまま売る選択肢が示されていなかった |
※ 出典はいずれも実務者が紹介している相談事例です。 解体費 500 万円は木造の一般的な目安(坪 3〜5 万円、30 坪なら 90〜150 万円程度)から見ると かなり高い水準で、延床が広い・付帯工事が多い・重機が入りにくいなどの条件が重なった場合の 金額です。詳しくは解体費用の相場を確認してください。
弱気になっているときほど、条件は通りやすい
こうした提案が問題になりやすいのは、「処分費用を払ってでも手放したい」という心理につけ込まれる構図があるからだ、 という指摘があります。何社も断られた後、遠方の管理に疲れた後、親の施設費用が重なった後 — 判断が急がされる状況ほど、内訳の確認や他社比較が飛ばされます。
だからこそ必要なのは「正しい相場を知ること」より前に、その日のうちに決めないという 1 点です。以下の順番で確認すれば、 少なくとも「他に選べたはずの道を知らないまま契約した」という事態は避けられます。
諦める前に確認する順番
- 1その場で契約しない。書面をもらって持ち帰る提示された当日
金額・名目・内訳が書かれた見積書と契約書案をもらう。口頭だけの提示は判断材料にならない
- 2会社の免許番号と実在を確認する1 日
宅地建物取引業の免許番号を国土交通省の検索システムで照会。商号・所在地が一致するか見る
- 3別の会社にも査定を取る(仲介と買取をそれぞれ)1〜2 週間
1 社の「売れませんね」で結論を出さない。買取専門の会社は比較用の 1 社として使いやすい
- 4「更地でないと売れない」の前提を疑う1〜2 週間
古家付きのまま売り出せないか、別の会社に聞いてみる。解体費を回収できるかは解体前に確認
- 5持ち出しになる出口を横に並べて金額を比べる2〜4 週間
引き取り料・解体費・相続土地国庫帰属の負担金・持ち続けた場合の維持費を同じ表に置く
- 6判断がつかなければ相談する随時
契約の内容に不安があれば消費生活センター(消費者ホットライン 188)へ。税務・登記は専門家へ
1. その場で契約しない
最初にやることは、断ることでも受けることでもなく「持ち帰ります」と言うことです。 持ち出しが発生する契約は、金額そのものより 「何の対価としていくら払うのか」「後から追加請求はないのか」が本質です。 それは口頭では確認できません。書面がもらえない、その場で判を求められる、 という時点で一度距離を取る理由になります。
2. 免許番号を照会する
宅地建物取引業を営む会社には免許番号があります。 「◯◯県知事(3)第◯◯◯◯号」「国土交通大臣(2)第◯◯◯◯号」といった表記です。 これは国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」(etsuran2.mlit.go.jp/TAKKEN/)で、商号や免許番号から照会できます。 建設業者・宅建業者など 12 業種が対象で、商号・代表者名・所在地などを確認できます。 広告の見た目や電話口の印象ではなく、ここで実在と表記の一致を確かめてください。
3. 別の会社にも査定を取る
10 社に断られたという報告がある一方で、 「え、売れたんですか?」と驚かれるような物件が実際に成約している、という報告もあります。 断られ方にも「うちでは扱えない」と「市場に買い手がいない」の違いがあり、 前者なら会社を変えるだけで結果が変わることがあります。
比較の取り方は買取と仲介の使い分けに まとめていますが、ここで重要なのは仲介と買取の両方から見積もりを取ることです。 仲介 1 社だけだと「売れない」という結論しか出ず、買取 1 社だけだと その提示額が高いのか低いのか比べようがありません。 空き家・中古戸建てを専門に買い取る会社は、金額と入金時期がその場で出るぶん比較用の 1 社として置いておくと、他社の提示が妥当かを測る物差しになります。
4. 「更地にしないと売れない」を疑う
解体費を提示されたときも同じで、その前提自体を別の会社に確認する価値があります。 地方では建物を残したままの方が、初期費用を抑えたい買い手にとって魅力となり 売れやすいケースが多いという指摘があります。 高額な解体費をかけて更地にしたのに売れず、住宅用地特例が外れて 固定資産税だけが上がる、という逆効果もあり得ます。 判断材料は古家付き土地として売るメリット・デメリットに 整理しています。
持ち出しになる出口を、同じ表に並べる
「引き取り料を払う」に応じる前に、他の出口がいくらかかるのかを横に並べてください。 比べてはじめて、提示された金額が高いのか安いのかが見えます。
| 出口 | お金の流れ(目安) | 期間感 | 先に確認したいこと |
|---|---|---|---|
| 引き取り料を払って引き取ってもらう | −提示額(報告例では 30〜100 万円超) | 会社の提示による | 免許番号・名目と内訳・追加請求の有無・所有権と税負担の移転時期 |
| 古家付きのまま売り出す | 売却額 −仲介手数料 | 数か月〜1 年超 | 別の会社でも「古家付きは無理」と言われるか。告知すべき不具合の整理 |
| 買取業者に売る | 市場価格の 6〜8 割程度が一般的な目安 | 数週間〜1 か月程度 | 複数社の提示額。0 円や持ち出しになる場合は名目と内訳 |
| 解体して土地として売る | −解体費(木造で坪 3〜5 万円程度) +土地代 | 解体 1〜2 か月 + 売却期間 | 解体前の土地査定。自治体の解体補助金。更地後の固定資産税 |
| 相続土地国庫帰属制度 | −審査手数料(1 筆 14,000 円) −負担金(原則 20 万円〜) −更地化費用 | 審査に半年〜1 年程度 | 建物付きは対象外。境界・担保・土壌汚染などの要件 |
| 決めずに持ち続ける | −固定資産税・管理費・帰省費が毎年 | — | 年間いくら出ていくか。管理不全空家・特定空家の指定リスク |
※ 金額・期間は一般的な目安で、地域・物件条件により大きく変わります。 国庫帰属の手数料・負担金は法務省の制度案内に基づく数値です (詳細は相続土地国庫帰属制度の使い方)。
こうして並べると、「引き取り料 30 万円」が 解体費や国庫帰属の負担金と比べて割高なのか妥当なのかが初めて判断できます。 5 つの出口の全体比較は田舎の実家が売れないときの 5 つの選択肢にまとめています。
借地権付きや事故物件など、そもそも一般の買い手がつきにくい実家は、 こうした「持ち出し提案」を受けやすい典型です。借地の実家は借地に建つ実家の処分、 過去に事件・事故があった家は事故物件の告知義務と売る方法で、 それぞれ正しい進め方を確認してください。
契約書にサインする前に確認したいこと
- 会社の免許番号が実在し、商号・所在地が一致するか国土交通省の企業情報検索システムで照会。広告や名刺の表記と突き合わせる
- 支払う金額の名目と内訳が書面にあるか「リフォーム費用」「処分費用」などの名目で、何にいくらかかるのかが分解されているか
- 追加請求の有無と上限が書かれているか「内見後に上乗せ」といった含みがないか。残置物・境界・埋設物を理由に増えないか
- 所有権がいつ移るか、税と管理責任がいつ相手に移るかお金を払ったのに名義が残ると、固定資産税と管理責任を負い続けることになる
- 解除の条件と違約金がどう書かれているか一度払った金銭が戻るのか、途中でやめられるのかを事前に読む
- 同じ物件について他社の提示を取ったか比較対象がないまま持ち出しに応じるのが一番避けたい。仲介・買取の両方から取る
- 不安が残るなら第三者に相談したか契約内容の不安は消費生活センター(消費者ホットライン 188)へ。税務・登記は専門家へ
なお、こうした「売主が費用を払って引き取ってもらう契約」そのものが 適法なのか違法なのかを、この記事で断定することはできません。 報告されているのは「そう提案された事例がある」という事実までです。 だからこそ、判断を自分ひとりで抱えず、消費者ホットライン 188(最寄りの消費生活相談窓口に案内されます。 相談自体は無料で、通話料のみ自己負担)や、 売却を依頼していない立場の専門家に内容を見てもらってください。
それでも売れた事例はある。ただし先延ばしのコストは上がる
20 年間空き家で老朽化が進み、人口減少エリアという二重の悪条件でも、 夏に売り出して年末に成約した(およそ半年)という報告があります。 「古くて田舎だから売れない」と半ば諦めていた人が 「え、売れたんですか?」と驚く場面は実際にある、という実務者の証言もあります。 断られ続けた事実は、売れない証明ではありません。
一方で、待てば条件が良くなるわけでもありません。 人口戦略会議が 2024 年 4 月に「令和 6 年・地方自治体『持続可能性』分析レポート」を公表しています。 そこでは「消滅可能性自治体」が 744 あると報告されました(分析対象は全国 1,729 自治体)。 2020 年から 2050 年までの 30 年間で、20〜39 歳の女性人口が半数以下になると推計される自治体です。 実家がそうした地域にあるなら、需要は時間とともに細っていく前提で動くほうが現実的です。
つまり「今の 1 社の提示に飛びつかない」と「決めるのを何年も先送りしない」は、 両立させるべき 2 つです。順番に確認して、期限を自分で区切る。 それが、絶望と放置の両方を避ける現実的な進め方になります。
決めずに持ち続けた場合、固定資産税と管理費が何年でいくら積み上がるかを試算できます。引き取り料の提示と比べる材料になります。
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Q. 不動産会社に「引き取り料を払ってください」と言われました。応じるしかないのでしょうか?
その 1 社の評価がそのまま市場の答えとは限りません。実際に、地元の会社に断られ続けた家がその後の売却活動で買い手についた事例も紹介されています。まずは「その場で契約しない」「金額と名目を書面で出してもらう」「別の会社にも査定を取る」の 3 つを済ませてから判断してください。持ち出しを伴う契約は、金額の妥当性だけでなく、いつ所有権が移り、いつから固定資産税と管理責任が相手に移るのかまで書面で確認する必要があります。判断に迷うときは消費生活センター(消費者ホットライン 188)や、売却を依頼していない第三者の専門家に相談するのが安全です。
Q. 買取査定が 0 円で、さらにリフォーム費用を請求されました。これは普通のことですか?
ネット広告経由の買取業者に査定を依頼したところ、買取額 0 円に加えて「リフォーム費用」名目で最低 100 万円(内見次第で上乗せ)の支払いを求められ、不審に思って契約を断ったという事例が紹介されています。この種の契約が適法かどうかを一律に判断することはできませんが、「買取」と言いながら売主に持ち出しが発生する提案は、名目・内訳・追加請求の有無を書面で確認すべき場面です。会社の免許番号が実在するかは国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で確認できます。
Q. 「更地にしないと売れない」と言われました。解体してから売るべきですか?
解体を前提にする前に、古家付きのまま売り出せないかを別の会社にも確認してください。地方では建物を残したままの方が、初期費用を抑えたい買い手にとって魅力になり売れやすいケースが多いという指摘があります。高額な解体費をかけて更地にしたのに売れず、住宅用地特例が外れて固定資産税だけ上がるという逆効果のリスクもあります。解体するにしても、木造なら坪 3〜5 万円が一般的な目安で、内訳を出させて複数社で比較するのが前提です。