結論 — 相続した実家は、たいてい「長期」になる
実家を売ると聞いて最初に不安になるのが、「相続してすぐ売ると税金が高いのでは」ということだと思います。
土地建物の譲渡所得は、所有期間によって税率が2段階に分かれます。 そして相続や贈与で取得したときは、被相続人や贈与者が取得した時期が そのまま引き継がれます。
つまり、親が30年前に建てた家なら、相続した翌月に売っても所有期間は30年超です。相続してから自分が持っていた期間だけで数えるわけではありません。ここを誤解したまま「5年待たないと」と考えてしまう人がいます。
税率の区分
| 長期譲渡所得 | 短期譲渡所得 | |
|---|---|---|
| 所有期間 | 譲渡した年の1月1日で5年超 | 同5年以下 |
| 所得税 | 15% | 30% |
| 住民税 | 5% | 9% |
このほかに復興特別所得税が、基準所得税額の2.1%かかります (平成25年から令和19年まで)。
判定の基準日は譲渡した年の1月1日です。 実際に売った日ではありません。所有期間が5年に近い場合、 年内に売るか年明けに売るかで区分が変わることがあります。
引き継ぐのは「時期」だけではない
相続や贈与で取得した場合、取得費も引き継ぎます。親が買ったときの購入代金や購入手数料をもとに計算します。
さらに、相続にあたって相続人が支払った登記費用や不動産取得税も、 その不動産を業務に使っていなければ取得費に含めることができます。名義変更にかかる費用で払ったものが、売るときに効いてくるということです。領収書を捨てないでください。
- 親の売買契約書購入代金が分かる最重要資料
- 購入時の仲介手数料の領収書取得費に含められます
- 相続登記の登録免許税・司法書士報酬の領収書業務用でなければ取得費に含められます
- 不動産取得税の納付書同上
- 増改築したときの工事の契約書・領収書建物の取得費に影響します
これらが見つかるかどうかで結論が変わります。書類の探し方は実家の書類整理に、相続財産そのものの調べ方は相続財産の調査にまとめています。
そもそも譲渡益が出るか
税率の話の前に確認したいことがあります。譲渡益が出なければ、譲渡所得の課税は生じません。
田舎の実家のように、売却額が取得費と譲渡費用の合計を下回る場合、 そもそも課税される所得が出ないことがあります。税率が15%か30%かを心配するより先に、売却額と取得費のどちらが大きいかを見るほうが実際的です。
売れるかどうかの見込みは田舎の実家が売れないとき、 売却の全体の流れは実家売却の流れにまとめています。
特例が使えるなら、そちらが先
譲渡益が出る場合でも、控除の特例が使えれば税額は変わります。 相続した実家で関係しやすいのは次の2つです。
| 特例 | 控除額 | 主な向き |
|---|---|---|
| 相続空き家の特別控除 | 最大3,000万円 | 相続した実家の売却。建築時期・耐震・未貸付など要件が細かい |
| 取得費加算の特例 | (取得費に加算) | 相続税を納めた人が、一定期間内に売った場合 |
相続空き家の3,000万円特別控除が使えるなら、税率の区分よりそちらの影響のほうがはるかに大きくなります。順番としては、特例が使えるかを先に確かめてください。
売る時期そのものの比較は親が生きているうちか、相続してからかにまとめています。税額の試算と有利不利の判断は税理士の領域なので、相続の相談先ガイドも参考にしてください。
よくある質問
相続した実家をすぐ売ると、税金が高くなりますか?
所有期間の判定では、被相続人や贈与者が取得した時期がそのまま引き継がれます。親が長く持っていた家であれば、相続した直後に売っても長期譲渡所得として扱われます。相続してから自分が持っていた期間だけで数えるわけではありません。したがって「相続してすぐ売ると短期譲渡で税率が高い」という理解は、多くの場合あてはまりません。ただし親自身が最近取得した不動産だった場合は短期になり得ます。親がいつ取得したかが分かる資料を探すところから始めてください。
親がいくらで買ったか分かりません。どうなりますか?
取得費が分からない場合、譲渡収入金額の一定割合を取得費とみなす方法があります。ただしその方法によると取得費が小さく見積もられ、結果として譲渡益が大きく計算されることがあります。売買契約書、当時の領収書、通帳の記録、住宅ローンの契約書など、購入代金の分かる資料が残っていないかを先に探してください。実家の書類がどこにあるかの探し方は「実家の書類整理」の記事にまとめています。資料が出てくるかどうかで結論が変わるため、諦める前に探す価値があります。
売って損が出た場合も申告が必要ですか?
譲渡益が出なければ譲渡所得の課税は生じません。ただし特例の適用を受けるために申告が必要な場合や、損失を他の所得と通算できるかどうかは、物件の用途や特例の種類によって扱いが変わります。マイホームの譲渡損失には一定の要件のもとで通算・繰越の制度がありますが、相続した空き家がその対象になるかは別の判断になります。損が出たから申告不要と決めつけず、税務署か税理士に確認してください。
一般的な制度の解説です。税率は国税庁の公表値ですが、実際の税額は取得費・譲渡費用・特例の適用によって変わります。個別の試算と申告は税務署または税理士にご確認ください。
この記事の出典(3件)
- 国税庁 タックスアンサー No.3208: 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 タックスアンサー No.3211: 短期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 タックスアンサー No.3270: 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期