結論 — 責任は引き渡しで終わらない。分かれ目は「知っていて黙っていたか」

実家を売って決済も引き渡しも終わり、ようやく肩の荷が下りた。そのあとで買主から 「雨漏りする」「シロアリの被害があった」と連絡が来ることがあります。 このとき売主が問われるのが契約不適合責任です。

先に結論を書くと、ポイントは3つです。

裏を返せば、売主にとって最大の防御は「知っていることを全部書くこと」です。 隠して高く売るより、伝えて納得して買ってもらうほうが、結果的に安全に終わります。

契約不適合責任 — 買主が使える4つの手段

売った物が「契約の内容に適合していない」とき、買主は次のことを求められます。 2020年の民法改正までは「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが組み替えられた形です。

買主ができること条文中身
追完請求民法562条修補・代替物の引渡しなど、契約どおりの状態にするよう求める
代金減額請求民法563条追完を催告しても応じないときなどに、不適合の程度に応じて代金を減らす
損害賠償請求民法564条売主に帰責事由がある場合に損害の賠償を求める
契約の解除民法564条契約をやめる。程度が軽微なときは解除できない

実家のような築年数の経った家では、雨漏り・シロアリ・給排水管の詰まりや漏水・ 建物の構造に関わる不具合などが典型です。「古いのだからお互い様」という感覚は通用せず、契約でどういう状態のものとして売ったかが基準になります。

期限は「引渡しから」ではなく「買主が気づいてから」

ここは誤解が多いところです。民法566条は、目的物の種類・品質に関する不適合について、 買主がその不適合を知った時から1年以内に売主へ通知すべきだと定めています。 起算点は引渡しの日ではありません。

しかも求められているのは「通知」であって、訴訟を起こす必要はありません。 裁判外で事実を知らせれば足りるとされています。

さらに同条にはただし書きがあり、引渡しの時に売主がその不適合を知っていた、 または重大な過失で知らなかった場合には、この1年の制限は適用されません。 知っていて黙っていた売主は、期間で守られないということです。

なお民法566条は任意規定なので、売買契約で期間を短く定めることも長く定めることもできます。 実際の中古住宅の取引では、引渡しから3か月といった短い期間を設ける契約書も珍しくありません。 自分がどういう条件で売ったかは、手元の売買契約書の条項で決まります。

「引渡しから2年」は、個人の売主には当てはまらない

中古住宅の話でよく出てくる「引渡しから2年」という数字があります。これは宅地建物取引業法40条のルールで、宅建業者が自ら売主となり、買主が業者でない場合に、 買主に不利な特約を無効とし、例外的に通知期間を「引渡しの日から2年以上」とする特約だけを 認めるというものです。

つまりこれはプロが売るときに素人の買主を守るための規制であって、実家を相続した個人が売る場合には適用されません。 個人が売主なら、適用されるのは民法の規定と、契約で決めた特約です。

この違いを知らないまま「2年たったから大丈夫」と考えるのは危険ですし、逆に 「2年間ずっと責任を負い続ける」と怯える必要もありません。 自分のケースがどちらなのかを、まず押さえてください。

売主が誰か適用されるルール
不動産会社(宅建業者)が売主・買主は個人宅建業法40条。免責はできず、通知期間は引渡しから2年以上とする特約のみ可
実家を相続した個人が売主民法のみ。免責特約も可能(ただし572条の限界あり)

ちなみに、そもそも仲介ではなく買取で不動産会社に直接売る場合は、買主がプロになるため、契約不適合責任を免責とする条件で話が進むことが多くなります。 手取りは下がりますが「売った後の不安を残さない」という価値はあります。

免責特約の限界 — 民法572条

古い家の売買では「契約不適合責任は免責とする」という特約が広く使われています。 築50年の家に完全な状態を求めるのは現実的でないからです。 これは有効ですが、限界があります。

民法572条は、担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても、「知りながら告げなかった事実」については責任を免れないと定めています。

この一文の意味は重いです。免責特約は「知らなかったことまで背負わないための線引き」として機能するのであって、「知っていることを隠すための道具」にはならないということです。 帰省のたびにバケツを置いていた雨漏りを黙ったまま免責特約を付けても、そこは守られません。

だから、告知書をどう書くかが実質の勝負になる

売却の手続きの中で、売主は告知書(物件状況等報告書)という書面を書きます。 雨漏り・シロアリ・給排水の不具合・増改築の履歴・境界の争いなど、物件の状態を売主が申告するものです。

国土交通省のガイドラインでも、不動産会社が売主に対してこの告知書面への記載を求めることで、 通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとされています。つまり買主に伝わる情報の入口は、ほぼここです。

ところが実家じまいには、この書面と相性の悪い構造があります。売主である自分は、その家に住んでいないということです。 親が住んでいた家、あるいは何年も空き家だった家について、 どこが傷んでいるかを売主が把握できていないのは、むしろ普通です。

このとき、いちばんやってはいけないのが確かめないまま「異常なし」に丸をつけることです。 告知書には「不明」「未確認」と書ける欄が設けられていることが多く、 正直に不明としたうえで、いつから空き家か・自分が住んでいたことはあるか・どこまで見たかを 添えておくほうが、後から「知っていて隠した」と評価されにくくなります。

実家じまいで、特に確認しておきたい項目

こうした項目は、売り出す直前に慌てて調べるより、実家の重要書類を整理する段階で一緒に拾っておくほうが確実です。傷みのサインの見方は実家の危険サインにまとめています。

なお、建物内で人が亡くなった場合の告知は、物理的な不具合とは別の基準 (国土交通省のガイドライン)で判断されます。こちらは事故物件と告知義務に、自然死は原則告知不要であることや、よく言われる「概ね3年」が売買には当てはまらないことを 含めて整理しています。

売る前に決めておく3つのこと

売り出しの準備をする段階で、次の3点を不動産会社と詰めておくと、後の不安が小さくなります。

この3つはいずれも、媒介契約を結ぶ前後で話が出てくるところです。売却全体の順番は実家の売却の流れを、そのまま手を入れずに引き渡す場合の考え方は現状渡しを参考にしてください。

この記事は民法および宅地建物取引業法の条文と、国土交通省のガイドラインを確認して書いています。 個別の契約でどこまで責任を負うか、実際に請求を受けたときにどう対応するかは、 契約書の内容と事情によって変わります。争いになりそうなときは、契約書を持って 弁護士などの専門家にご相談ください。

よくある質問

親が住んでいた家なので、不具合があったかどうか自分では分かりません。どう書けばいいですか?

分からないことを「無い」と書くのは避けてください。告知書には「不明」「未確認」と書ける欄が設けられていることが多く、正直に不明と記載したうえで、いつから空き家か・自分は居住していたか・どこまで確認したかを補足しておくと、後から「知っていたのに隠した」と評価されにくくなります。逆に、実際には調べていないのに「異常なし」に丸をつけてしまうと、あとで不具合が出たときに説明が苦しくなります。書き方に迷ったら、その場で丸をつけず、仲介する不動産会社に事情を伝えて相談してください。

「契約不適合責任は免責」という特約を付ければ、もう何を言われても大丈夫ですか?

いいえ。民法572条は、担保責任を負わない特約をしていても「知りながら告げなかった事実」については責任を免れないと定めています。つまり免責特約が効くのは、売主が本当に知らなかった不具合についてです。知っていた雨漏りを黙って免責特約を付けた、という形では守られません。免責特約は「隠すための道具」ではなく「知り得なかったことまで背負わないための線引き」だと考えるのが実態に近いです。

引き渡してから何年たてば、もう請求されなくなりますか?

「引渡しから何年」という単純な線引きではありません。民法566条は、種類・品質の不適合について買主が「その不適合を知った時から1年以内」に通知することを求めており、起算点は引渡しではなく買主が気づいた時です。ただしこれは任意規定なので、売買契約で期間を短く定めることもでき、実際の中古住宅の取引では引渡しから数か月といった短い期間を設ける例もあります。自分の契約がどうなっているかは契約書の条項次第なので、手元の売買契約書を確認してください。