結論 — 団信があるかどうかで、手続きも負担もまったく変わる
実家の名義を調べていたら、まだ住宅ローンが残っていた。 そんなとき最初に確認すべきことはただ一つ、団体信用生命保険(団信)に加入していたかどうかです。
団信は、住宅ローンの契約者が死亡または高度障害状態になったとき、 保険会社が本人に代わってローンの残りを金融機関に支払う保険です。 多くの民間住宅ローンでは加入が必須になっていますが、親の財産・借金の調べ方でも触れているとおり、 加入の有無や適用条件は思っている以上に確認が必要です。
団信があれば、原則として残りのローンは保険金で完済され、 相続人が肩代わりする必要はありません。 一方、団信がない、または効かないケースでは、 住宅ローンは「マイナスの財産」として相続人全員に法定相続分どおり引き継がれるのが原則です。 全体像を比較表で整理します。
| 団信あり(保険金が支払われる場合) | 団信なし・効かない場合 | |
|---|---|---|
| ローンの扱い | 保険金で完済されるのが原則 | 残債務がそのまま相続財産(マイナスの遺産)になる |
| 誰が返済するか | 誰も返済しなくてよい | 相続人全員が法定相続分に応じて返済義務を負うのが原則 |
| 必要な手続き | 保険金請求 → 完済 → 抵当権抹消登記 | 遺産分割・免責的債務引受など(いずれも銀行の同意が前提) |
| 相続税の債務控除 | 死亡時点で債務が消えるため対象外になる | 死亡時点で存在する債務として対象になり得る |
| 注意点 | 保険金請求権に時効がある(3年) | 「1人が継ぐ」と決めても銀行の同意がないと他の相続人にも請求が及び得る |
※ 保険法95条、民法902条の2・472条、国税庁タックスアンサー No.4126 をもとにした一般的な整理です。 個別の契約内容・税額の判断はできません。詳しくは本文でそれぞれ解説します。
団信ありの場合の手続き — 保険金請求から抵当権抹消登記まで
団信に加入していたことが分かったら、やることの順番はおおむね決まっています。
- 1金融機関に連絡するできるだけ早く
住宅ローンの契約者が亡くなったことを伝え、団信の加入状況と必要書類を確認する
- 2保険金請求に必要な書類をそろえて提出する
死亡診断書(死体検案書)、保険金請求書、住民票除票など。金融機関経由で保険会社に提出するのが一般的
- 3保険会社の審査を経て保険金が金融機関に支払われる
ローンの残額が保険金で完済される。完済関係書類(弁済証書・解除証書など)が金融機関から届く
- 4相続登記(名義変更)を行う
抵当権抹消登記を申請するには、登記簿上の所有者(申請人)である必要があるため、先に不動産の名義を相続人へ移しておく必要がある
- 5抵当権抹消登記を申請する
法務局へ申請。登録免許税は不動産1個につき1,000円(土地・建物の2個なら2,000円)
相続登記そのものの進め方は相続登記を自分でやる手順にまとめてあります。 抵当権抹消登記に必要な書類は、法務局の案内によれば抵当権者(金融機関)の登記識別情報または登記済証、弁済証書・解除証書などの登記原因証明情報、 金融機関の資格証明情報、委任状です。 登録免許税は不動産1個につき1,000円で、土地と建物をあわせて1件で申請する場合は2,000円になります (出典: 法務局「抵当権の抹消登記に必要な書類と登録免許税」)。
実務上は、相続登記と抵当権抹消登記をあわせて申請する(連件申請)ことも多いようです。 自分で全部やろうとすると書類集めだけでもかなりの手間になるので、 相続登記の名義変更にかかる費用感は実家の名義変更にかかる費用もあわせてご覧ください。
保険金の請求には時効がある — 「そのうち」は危ない
団信は自動的に保険金が支払われるものではなく、遺族側から金融機関・保険会社に請求して初めて動き出す手続きです。 そして保険金を請求する権利には、期限があります。
保険法95条1項は、保険給付を請求する権利は行使することができる時から3年間行わないときは、時効によって消滅すると定めています。 団信もこの規定が適用される生命保険の一種にあたるため、 死亡から3年以内に請求手続きを行うのが原則です (出典: 保険法95条、日本損害保険協会の解説)。
※ 時効は当事者(この場合は保険会社)が援用して初めて確定するもので、 3年を過ぎた時点で自動的に一切請求できなくなるとは限りません。 ただし確実に請求できる保証はないため、後回しにする理由にはなりません。 気づいた時点ですぐ金融機関へ連絡してください。
葬儀や各種の届け出に追われる中で、団信の手続きは後回しになりがちです。 死後の期限がある手続き全体は親が亡くなった直後の手続きにまとめていますので、 あわせて確認しておくと漏れを防げます。
「入っているはず」が通じない — 団信が効かない4つのパターン
団信に入っていたからといって、必ず保険金が支払われるとは限りません。 次のようなケースでは、団信が効かず住宅ローンがそのまま残ってしまうことがあります。
- フラット35などで、そもそも団信に未加入だった住宅金融支援機構のフラット35では、機構団信への加入は任意です。健康上の理由などで加入しない場合もフラット35自体は利用でき、その場合の金利は団信付きよりやや低く設定されます(出典: 住宅金融支援機構 フラット35 よくある質問)。多くの民間ローンでは加入が必須ですが、フラット35は例外にあたります。
- 住宅ローンの延滞が続き、団信が失効していた民間の住宅ローンでは団信の保険料が金利に含まれて金融機関が支払っているため、返済の延滞が長期化すると保険料の支払いも滞り、団信が失効することがあると説明されています。「入っているはず」と思っていても、延滞歴があると保障が切れている可能性があります。
- ペアローンで、亡くなった側が団信に未加入だった夫婦などでペアローンを組む場合、それぞれが別々に団信へ加入するのが基本です。ただし加入は任意加入だったり、健康状態によって加入できなかったりすることもあり、亡くなった側が未加入だと、その人の債務は保険金でカバーされません。なお生存側のローン残高は、通常のペアローンでは(連生団信などの特約がない限り)そのまま残ります。
- 親子リレーローンで、加入していたのは子の方だった親子リレーローンは、親から子へ返済を引き継ぐ前提の商品です。団信に加入するのは多くの場合、後で返済を引き継ぐ子の側とされ、親は加入対象にならない、または加入できないことがあります。親が先に亡くなっても団信は下りず、子が残りの返済を(前倒しで本格的に)引き継ぐことになります。
「団信に入っていたはず」という思い込みのまま安心せず、 まずは金融機関に加入状況と、延滞などによる失効の有無を確認することが出発点になります。
団信がない場合の原則 — 住宅ローンは「マイナスの遺産」として全員に分割される
団信がない、または効かないと分かった場合、次に理解しておきたいのが住宅ローンの残りは誰が返済することになるのかという原則です。
借金のような、金額で分けられる債務(可分債務)は、最高裁判所の判決で「法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する」と整理されています(最高裁昭和34年6月19日判決とされることが多い判例)。 つまり、遺産分割協議を経なくても、相続開始と同時に法定相続分どおり分割された状態になる、 という考え方です。
ここで見落としやすいのが、相続人どうしで話し合って決めたことは、 銀行(債権者)には当然には通用しないという点です。 民法902条の2は、被相続人が遺言で相続分の指定をした場合であっても、債権者は各共同相続人に対し、法定相続分に応じて権利を行使できると定めています。 ただし債権者が指定された相続分どおりの承継を承認したときは、この限りではないとされています。 遺産分割協議で「実家を継ぐ長男がローンも全額払う」と決めた場合も、 この協議は相続人どうしでは有効ですが、銀行の同意がなければ、銀行は他の相続人にも法定相続分に応じた返済を求められる可能性がある、という理屈です。
※ 民法902条の2・最高裁昭和34年6月19日判決とされる判例をもとにした一般的な整理です。 実際の適用は個別の契約・事案によるため、金融機関・弁護士にご確認ください。
「じゃあ、遺産分割協議書を作っても意味がないのか」というと、そうではありません。 相続人どうしの負担割合を明確にしておくことは、 後で立て替えが発生したときの求償(誰が誰に、いくら請求できるか)の根拠になります。 協議書自体の書き方は遺産分割協議書の書き方で解説していますので、 住宅ローンが絡む場合も基本の書式は参考にしてください。 ただし銀行に対して確定的な効力を持たせるには、次に説明する手続きが必要になります。
返済を特定の1人に絞る方法 — いずれも「銀行の同意」が前提
「実家を継ぐ人が返済も引き継ぐ」という形を、銀行に対しても確定させる方法は、 大きく分けて次の3つが考えられます。
- 遺言で相続分・負担者を指定する被相続人が生前に遺言で定める方法。ただし前述のとおり、遺言による指定だけでは銀行の権利行使を止められない(民法902条の2)
- 遺産分割協議で負担者を決める相続人どうしの合意としては有効。ただし銀行に対抗するには、別途、銀行の同意(免責的債務引受など)が必要になる
- 銀行の同意を得て、免責的債務引受の手続きを取る民法472条に基づく手続き。特定の相続人だけが債務を引き継ぎ、他の相続人は債務を免れる、という効果を銀行との関係でも確定できる
民法472条1項は、免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、 債務者は自己の債務を免れると定めています。 そしてこの引受は、債権者と引受人になる者との契約(債務者への通知で効力発生)、 または債務者と引受人になる者の契約に、債権者が承諾することで成立するとされています (同条2項・3項)。 いずれのルートでも債権者(銀行)の関与が欠かせない仕組みになっている点がポイントです。
実務上、銀行が免責的債務引受に応じるかどうかは、 新たに債務を引き継ぐ人の収入や年齢、返済能力などを踏まえた審査によって判断されるのが一般的です。 個別の審査基準は金融機関ごとに異なるため、 「引き継げるはず」と決め打ちせず、早い段階で窓口に相談することをおすすめします。
団信の確認・登記・銀行との交渉など、やることの進捗はチェックリストで管理できます。
無料ツール(登録不要)実家じまいチェックリスト【進捗が保存できる実践版】チェックした進捗を自動保存。印刷して親族と共有も使ってみる →返済が滞ったらどうなるか — 抵当権の実行(競売)という最終手段
相続人の間で話がまとまらない、あるいは誰も返済できないまま滞納が続くと、 最終的には抵当権の実行(競売)という手段が取られることがあります。 住宅ローンを組む際、実家には担保として抵当権が設定されているのが通常で、 相続によって不動産の名義が変わっても、抵当権そのものは消えません。
抵当権が実行されると、裁判所を通じて不動産が競売にかけられ、 その売却代金がローンの残債務に充てられます。売却代金で残債務が完済されれば、その債務は消滅し、それ以上の返済は生じません。 一方、売却代金だけでは完済に届かない場合(いわゆるオーバーローン)は、 残った債務について銀行から相続人へ請求が続く可能性があります。
競売は、住んでいた家を手放さざるを得なくなる手段であり、 相続人にとって望ましい結末ではありません。 支払いが難しいと分かった時点で、競売に至る前に実家売却の流れを確認し、 任意売却や早期の売却を検討したほうが、手取りの面でも精神的な負担の面でも現実的な場合が多いはずです。
また、そもそも住宅ローンの残高が実家の価値を大きく上回っていて、 プラスの財産よりマイナスの財産のほうが多いと分かった場合は、相続放棄という選択肢も検討対象になります。 相続放棄には期限(原則3か月)があるため、財産・借金の調べ方を参考に、早めの調査をおすすめします。
相続税の計算では扱いが変わる — 団信で完済されたローンは債務控除の対象外
相続税を計算するとき、被相続人が死亡した時点で現に存在していた確実な債務は、 遺産総額から差し引くことができます(債務控除、出典: 国税庁タックスアンサー No.4126)。
ここで団信の有無が影響してきます。団信によって死亡と同時にローンが完済された場合、死亡時点でそのローンは存在しないことになるため、 債務控除の対象にはなりません。 一方、団信がなく住宅ローンがそのまま残った場合は、 死亡時点で現に存在する債務として、原則どおり債務控除の対象になり得ます。
※ 個別の税額計算は事案によって変わるため、正確な判断は税理士にご確認ください。
今日からできること
- 登記事項証明書で抵当権の設定状況を確認する法務局で誰でも取得できる。抵当権が残っていれば住宅ローンが完済していない証拠になる
- 住宅ローンの契約先(金融機関)に団信の加入状況を確認するフラット35・ペアローン・親子リレーローンなら特に、加入者が誰かを確認する
- 団信があれば、できるだけ早く保険金請求の手続きを始める請求権には3年の時効がある。葬儀・各種届出と並行して着手する
- 団信がなければ、実家の価値とローン残高を比べてみるプラスとマイナス、どちらが大きいかで相続放棄も含めた選択肢の幅が変わる
- 「1人が継ぐ」で終わらせず、早めに銀行へ相談する免責的債務引受など、銀行を交えた手続きを取らないと確定しない
誰に何を相談すればいいか迷ったら、相続の相談先ガイドもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 団信に入っていたはずですが、何を確認すればいいですか?
まず、住宅ローンを借りている金融機関に連絡し、団体信用生命保険の加入状況を確認してください。加入していれば、死亡診断書(死体検案書)や所定の請求書などを提出して保険金の請求手続きに進みます。保険金でローンが完済されると、不動産に付いている抵当権を消す「抵当権抹消登記」が必要になります。ただし保険法95条により保険金を請求する権利は3年で時効消滅するとされているため、後回しにせず早めに金融機関へ連絡することをおすすめします。実際に何を優先すべきかは、まず登記事項証明書で抵当権の設定状況を確認したうえで、金融機関や司法書士に相談するのが確実です。
Q. 団信がない場合、相続放棄すれば住宅ローンを払わずに済みますか?
相続放棄が家庭裁判所に受理されれば、その方は初めから相続人でなかったことになるため、住宅ローンの返済義務も負いません(民法915条・939条)。ただし相続放棄は借金だけを放棄することはできず、実家を含むプラスの財産もすべて手放すことになります。また放棄によって相続権が次の順位の親族(兄弟姉妹など)に移る場合もあり、事前に伝えておかないとトラブルになりかねません。実家の資産価値とローン残高、他の相続人との関係を踏まえた判断になるため、期限(自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月)に注意しつつ、早めに弁護士や司法書士に相談してください。
Q. 兄弟の1人が「自分が実家を継ぐから、ローンも自分が払う」と言っています。それで安心していいですか?
相続人どうしの話し合いだけでは、銀行(債権者)に対しては効力が及ばない可能性がある点に注意が必要です。民法902条の2は、遺言で相続分の指定があった場合でも、債権者は各相続人に対して法定相続分に応じた請求ができると定めています。遺産分割協議についても同様の考え方が及ぶとされ、銀行が請求してくれば、他の相続人も支払いを求められることがあり得ます。特定の1人に確定的に一本化するには、銀行の同意を得て免責的債務引受(民法472条)の手続きを取ることが前提になります。「口約束」や「協議書に書いただけ」で安心せず、必ず銀行に連絡して手続きの要否を確認してください。
※ 本記事は保険法・民法の条文、最高裁判例、法務局・住宅金融支援機構・国税庁の公表資料に基づく 一般的な制度解説であり、個別の契約内容・法律判断・税額の判断はできません。 団信の加入条件・審査基準は金融機関ごとに異なります。 具体的な手続きは、住宅ローンを借りている金融機関、および司法書士・弁護士・税理士にご相談ください。 制度の内容は 2026 年 7 月時点のものです。